※「気づいてしまったボクと、気づかないキミ」と同一夢主



ざざ、と、PCの画面に走ったノイズに、ナマエは、ため息をついて、キーボードの上で手を止めた。ちょうどいい、彼には言いたいことがあった。

『――ナマエ、』
「サウンドウェーブ、うちの衛星。一つ駄目にしたでしょう」
『…………スペックが低すぎる』
「あのね、あれ。試作機なのよ?それに、地球上には、君たちの計算速度に耐えれるハードのほうが少ないと思うよ」

沈黙したサウンドウェーブは、話を逸らすように、今後の計画についての命令を下した。

『軍の衛星に侵入する。発生する処理落ちを誤魔化しておけ』
「わかった。適当に、電力切っとくよ」

細かな打ち合わせを終えた後も、サウンドウェーブは通信を切らないので、なんとなくナマエも、作業に戻れない。部屋には、静かに音楽が流れていた。適当にプレイリストをかけているのだが、なんだかサウンドウェーブが耳を傾けている気がして、ふと浮かび上がった疑問を口にした。

「あなたたち、音楽とか、歌、ってないの?」
『ないな。あれは効率が悪い。……だが"音"は、集めていた』

彼が命令に関係のない話をするのは、珍しい、と。ナマエはひっそりと微笑む。

「音?」
『単純に言えば、周波数だ』

他の仲間の出す"声"。これは識別速度を高めるため、という目的もあった。戦闘の際の、金属がぶつかりあう音。合図に使う短い信号。宇宙にも音は存在する。人間にはとらえられないが、と言い添える。それが高じて、気づけば、周りからは、"音波"だなんて呼ばれていた。

『地球には、音があふれかえっている。有機体が出すたくさんの音には驚いた。それに、』
「それに?」
『地球の音楽は、評価している』

意外な言葉。だけど、嬉しい言葉でもある。

「私のプレイリストでよければ、共有する?」

気に入るといいんだけど、と呟いて、くるりとペンを回す。すぐにデータの転送が行われるのに苦笑。沈黙が落ちて、ナマエは、自然と、作業に戻っていた。

『――ナマエのプレイリストは、俺の"センス"に合う』
「………………ありがと」

センス、なんて、これもまた珍しい言葉選びだ。いい気分のまま、ナマエは小さく口ずさみはじめる。
それを記録するサウンドウェーブは、あえて音声回路を切った。馬鹿なことを、言わないために。
今まで記録してきた音波のどれよりも、ナマエのハミングまじりの歌声は美しいと感じた。


歌って、ラブソング