メガトロン様が戦死された−−。
がちゃん、と、ナマエの手から滑り落ちたマグカップが、とコンクリートの床にぶつかって、砕け散る。その一欠片が、目の前にそびえ立つ金属の脚に当たって、静かになる。

スタースクリームは、そんな彼女の様子に、いささか、困惑し、キューブの欠片を使えば、復活も可能だと、端的に説明した。−−まるで、慰めるような形になったことに気づいて、ぎ、と顔をしかめる。彼女は、まだ動きをとめたままだ。

ナマエは、ディセプティコンと手を組んでいる人間の1人だ。アキュレッタ・システムズ社の親会社を経営しており、ディラン・グールドとは、幼馴染である。
奴と違う点は、両親からある種、洗脳とも言える教育を受けている、というところだろう。

「、あーあ」

気に入ってたのに、とひとりごちて、ちりとりと箒を探しに行くナマエを、観察した。飄々とした様子は、普段のそれを取り戻したかに見える。

「……それで、どうするの?」

かちゃ、かちゃり、破片をすべて集め、ぞんざいにゴミ箱に捨ててしまいながら、ナマエは淡々と尋ねた。

『−−貴様は、指示通り動けばいい』
「誰が指示を出すの」
『しばらくは、俺だ』
「……そう、」

気に入らない。何故だ。苛立ちが、スパークをじわじわと侵す。
メガトロンがいなくなり、しばらくは、スタースクリームが指揮をとることになる。これまでは、常にNo.2に甘んじてきた。だが、それにどこかで不満を感じていたのも、確かだ。だから今の状況は、潜在的にあった希望が期限付きで実現したような、……まあ、悪くはない。
強いて言うなら、言うことを聞かない奴らがいることが、腹立たしいが、それは、構わない。メガトロンほどの、カリスマ性が自身にないことは、承知だ。
だが、それは。

『またヘマしたの?』

忌々しい折檻のたびに、ナマエがくすくすと笑いながら、リペア箇所がないかを診てきた。
それも、しばらくは、ないということ。

「あー、びっくりした」
『……何がだ』

くるくるとペンを回しながら、ナマエは、自嘲の笑みを浮かべる。

「自分で思ってたより、私、あなたたちに、依存してたのね」

生きる意味がなくなってしまうという恐怖、多分それを感じたんだろう、とナマエは、言う。彼女はたまに、自身のことを客観視するような喋り方をする。

『俺が、』
「うん?」
『俺が、機能停止を起こしたら、どうする』
「え、」

言ってから、愕然とする。この状況で、この言葉、これでは、まるで−−。

「困るね、それは」

とっても、とナマエは言う。
スタースクリームが気づいてしまったことに、気づいた様子はない。それに、小さく排気した。

『何故』
「寂しくなるから」
『そうか』
「うん」
『……そうか』

首を傾げて、どうしたの、と聞いてくるナマエの顔が、カメラアイに焼けつくようで、かしゃり、かしゃ、と、何度も瞬く。



気づいてしまったボクと、気づかないキミ