※「気づいてしまったボクと、気づかないキミ」と同一夢主



 チェルノブイリに到着すれば、レーザービークから、予定外の事態を伝えられた。ここ数日行方をくらましていたナマエが、今日用済みとなって処理された人間と共にいたというのだ。
 レーザービークが同時に報告を行ったらしく、直属の主であるサウンドウェーブはいち早く、無事に保護せよ、と通信を飛ばしてきた。余計なことをする鳥だ、とも思わなくもないが、ここで放置して人間にナマエが捕まっても、面倒だ。レーザービークに受け渡し地点を知らせて、オートボット共を撹乱することにする。壊れた船のエンジンの回収よりは、現在のディセプティコンの中枢に関わっている女の回収が優先事項になった。
 ――――まったく、面倒な。

 プライムとの戦闘を隠れ蓑に、レーザービークとドリラーに、ナマエの受け渡しをさせた。オプティマスが、不審さに気が付いたものの、エンジンに目が向いたので、問題はないだろうと結論づける。

 「あいたたた……」

 レーザービークが放り込んだらしく、おかしな格好に丸まっていたナマエをつまみあげた。ドリラーの内部構造は人間を想定していないため、動き回れば怪我をする恐れがある。仕方なく、ショックウェーブはナマエを、自身の足部に載せた。

 「助かりました、ありがとうございます」
 『……、………………』

 ショックウェーブに話をする気はない。なのに、ナマエは気にした様子もなく、話し続ける。

 「"内密な報告があるものの、信憑性が低いため、確認を"。そう言われて呼び出されたんですけれど、殴られて、気を失って、気づいたらあそこに」

 あ、たんこぶできてる。後頭部を撫でてひとりごちたナマエ。理解しかねる、とショックウェーブは小さく排気する。

 「私、"お気に入り"だなんて呼ばれてるんですね。知らなかった」
 『…………』
 「その"お気に入り"と行動を共にしていたら殺されないと本気で思っていたみたいで。相当追いつめられていましたね。まあ、結局はレーザービークが私の目の前で処刑してしまいましたが」

 頼む、俺には家族が――、今際の言葉を思い出して、ナマエは顎に手を当てた。

 「私の両親を殺した人って、まだ生きてましたっけ」
 『――……エジプトでスクラップになったはずだ』
 「……なるほど」
 『覚えているのか』
 「まあ……、ぼんやりとは」

 ナマエの10歳の誕生日だ。娘を連れて身を隠そうとしていたのを、サウンドウェーブが発見し、スタースクリームが処理の裁断を下した。
 娘にはまっとうな道を歩ませたいという一心からだったそうだが、当の本人であるナマエは、泣き叫ぶ両親を不思議そうに見つめていたらしい。グールドに預けられたものの、長じて、サウンドウェーブが残した親会社の経営権を握り、今に至る。

 「変な人たちだなあ、と今でも思いますよ。裏切り者になるのを恐れて、熱心に教育をし過ぎました。そのせいで、私はあなたたちに何ら疑問を抱かなかった。むしろ、耐えられなくなって逃げ出した両親を、理解できなかった」

 それきり、口を閉ざしたナマエ。どうやら、戻るまで眠ろうというらしい。仲間からも恐れられているショックウェーブの足の上で、もぞもぞと居心地を模索するナマエは、やはりどこか、異常な人間だ。
 ドリラーが掘削する土の音が聞こえ、ショックウェーブが細かい機器を操作する音が重なる。

 『――お前も結局は同じだ。裏切れば、"お気に入り"だろうと、殺す』
 「、……それなら、貴方が殺してください」
 
 半分眠っていたのか、ナマエはぼんやりとした声で返事をする。
 ナマエは人間で、どうあがいても、先に死なねばならない。

 「裏切らなくとも、老いて使い物にならなくなったら、ショックウェーブが殺してくださいよ。……それがいい」

 貴方も……、笑うことがあるんですね。
 ショックウェーブの単眼を見つめて微笑み、ナマエは、ゆっくりと、目を閉じた。



はすのうてなを丸ごと捧げて