「どうしたのミカエラ。こんなところに呼び出して」
「、別に」

と、言いつつ、彼女は席に着くなり、深い深いため息をついた。

「ねえ、ナマエって、恋人とかいた?」
「いないよ。昔はいたけど。どうせなら好きになった人と結婚までしたいじゃない。わがままだけど、軍人以外の人がいい。私が任務に出ていても、おとなしく待っていてくれるような、そんな人」
「……今ので結構な人数の泣き寝入りが確定したわね」
「え?」
「なんでもない」

NESTだけでも、ナマエに恋心を抱いている兵士は多いというのに、と思いながらミカエラは首を振る。

「あー……うん、えっと」
「サムがらみ?」
「まあ、そうね」

物憂げに髪を掻き上げたミカエラに、チョコレートドリンクのLサイズをおごってやる。女子に必要なもの、それは、甘いものと、恋だ。

「もちろん、ビーは大事。もう家族みたいなものだし、けど、だからこそ…」
「うーん、まあ確かに」
「ドライブ先で気分が盛り上がっちゃった時とか、ね?」
「うんうん」
「キスまでならともかく、セックスは無理でしょ」
「うーむ……」

今はナマエの運転する車で、あてもなくドライブ中だ。サムが大学で、東海岸に行ってしまうことといい、いろいろ鬱憤がたまっているようだ、と苦笑する。

「サムが新車を買うのを待つ?」
「それは、無理よ。サムってば、バンブルビーを置いてかなきゃいけないからって、たまに泣いてるの。それに、バンブルビーは大事。私、彼のことも大好きなの」
「私も好き。バンブルビーのこと、嫌いになれる人がいたら、ぜひ会いたいわね」
「つまり、もう少し、落ち着けってことね。私も大人げなかった。いつまでも、ティーンのままじゃ、だめよね」
「そうねえ」

ようやく、ガスが抜けたらしいミカエラを、家に送り届けて、ナマエも基地への道にハンドルを切った。



「ああ、そうか。ミカエラ、まだあなたのこと知らないんだっけ」
『……いまさらかよ』

呆れたような声が、カーステレオから漏れた。
コルベット・スティングレイの、コンセプトカー。新しくやってきた、オートボットのひとり――サイドスワイプだ。

「ごめんね、手が空いてる人がいなくてさ」
『別に』

戦闘時のテンションはかなり高いが、普段の彼は物静かというより、少し愛想にかける。まあ彼なりに、人間が信頼に足るかを見極めてるところなんだろう。オプティマスもそれをわかっていて、命令という形で、ナマエの休みに合わせて、サイドスワイプを外に出した。

『さっきの話、本当か』
「さっき?」
『オートボットの中で、誰が一番にかっこいいかって』
「え、ああ……」

正直、意外だ。彼がそういう話に興味があるとは。運転するフリを本格的にやめて、握るだけになった、ハンドルに手を滑らせる。
会話を思い出すのに時間がかかるのは、ミカエラと交わした会話があまりにも多かったせいだ。



「ねえオートボットなら誰がかっこいいと思う?」
「えー……」
「バンブルビーは、かっこいいというより、かわいいわよね。オプティマスは、ナマエには渋すぎだわ」

あとは、ジャズと、ラチェットと、アイアンハイドね、と言ったミカエラに、ナマエを考えた。



『ラチェット、って言ったよな』
「まあね」

苦笑気味にナマエは頷く。そもそも、そういう目で見たことがなかったから、困ったのだ。そのとき、頭に閃いたのは、彼らの個性が表れている《変形》の瞬間だった。

「仕事柄、彼と一緒によくいる分、よく見るんだけど。エロいんだよねえ……あの腰」
『お前……基地にいる男どもみたいだぞ』
「あはは、よくしてるよね、色っぽい女選手権とか言って」

お前もその話によく出てくるがな、と、それは内心にとどめて、サイドスワイプは排気する。

『なんで、――アイアンハイドじゃないんだ?』
「ああ、そっち」
『なんだよ』
「いや、別に。アイアンハイドねえ……。彼もどっちかって言ったら、オプティマスと同じで、頼れる上官っていう感じなんだよね」
『!お前、わかってるな!』
「へ、」
『アイアンハイドがかっこいいのはやっぱ武器に詳しいとこなんだよ!オプティマスもなんだかんだ、アイアンハイドのこと頼ってるしさ』
「え、あ、う、うん」

不愛想はどこへやら、アイアンハイドがいかに素晴らしいかを饒舌に語るサイドスワイプに、ばれぬよう微笑んで、そして思う存分聞いてあげた。



「明日はもうディエゴガルシアに帰るけど。他に行きたいところとかある?」
『いや、別に』
「そう。まあ、付き合ってくれてありがとう。助かったし、いい気分だった」

嬉しそうに笑って、ナマエは、こん、とボンネットを拳で小突く。西海岸の平凡な街では、サムの言った通り、高級車は目立ちすぎる。

「運転もスマートだし、これからは、同志として、かっこいいのは誰かと聞かれたら、サイドスワイプって言うわ」

にこりと笑って、営舎へと戻っていくナマエ。一拍おいて、サイドスワイプは大きく排気した。




ああ、ずるいな


(なんでナマエがモテるのか、わかっちまった)