ウィンチェスター兄弟とは、まあ、それなりのつき合いになる。
 ディーンと一緒にサムの面倒を見ていたから、自分の弟のように思っているし、彼も私を姉のように思ってくれている。他界した父がハンターだったこともあって、ウィンチェスター家に起きた惨劇のことも知っているし、その後に彼らが辿った過酷な道にも、理解はある。

 「なんでサムばっかモテるんだよ」

 乱暴に、グラスをテーブルに置いて、ディーンは言った。目は据わっていて、顔は全体的に赤い。立派な酔っぱらいである。

 「なんでだろうねえ」
 「そりゃ背はどっかで負けたよ。あいつは目がでかくて、かわいいよ」

 インテリだし、足は長いし、かっこいい、いやかわいい。サミーはかわいいんだよ。なんて、ちょいちょいブラコンを挟みながら、ディーンはうあああと机に突っ伏した。

 「俺だって顔は悪くない」
 「そうだね。かっこいい」
 「だろ?どうしてモテねえのかなあ」

 よしよしと嘆く頭を撫でてやる。
 ディーンは普通にかっこいい。口は悪いし、きれいな女の人に弱いけど、弟思いで家族思い。私だって、困っていた時には、何度も助けてもらった。
 一つところにとどまることはあまりないけど、サムは、戻ってきて私と顔を合わすたびに聞いてくるのだ。いつになったらくっつくのかって。そんなの、私が聞きたいよ。
 ディーン達ほどじゃなくても、私だってハンターの端くれだ。危険は承知してる。連絡も寄越さず、ふらっと帰ってくる兄弟を迎えるのに、笑顔を浮かべるのは、少しだけ、疲れを感じる。
 寝落ちしそうになっているディーンの頬をつつく。

 「あのさ、」
 「んー」
 「私、もうそろそろ30歳だよ」

 昔、一度だけ、何故だかディーンだけが帰ってきたことがある。あの時、恋人未満までいっていた男性を紹介したら、あなた、わかりやすくへの字口をしたじゃない。挙動不審になって、おかげで、うまくいかなかったわよ、ありがとう。
 つまり、何を言いたいかっていうとね。変な遠慮しないで、素直に好きって言ってってこと。

 「このままじゃ、立派な嫁きおくれなんですけど?」
 「……、…………」

 がばり、と起きあがったディーンは、私の手を掴んで、じっと見つめてくる。予期しない真剣な眼差しに、ちょっとだけ引いてしまった。
 けれど、彼は、形容するなら、ふにゃり、と緩んだ笑みを浮かべる。いつも帯びている野生みをどこに置いてきたんだと言いたくなるほど、気の抜けた顔で、残酷なことを言うのだ。

 「ナマエのドレス姿、きっと綺麗だろうな」
 「……もう」

 ディーンだけが、それを私に着せれるのよ、馬鹿。



 呆れたように、笑うナマエ。その目が、俺に言ってる。甘く、責めてくる。私の初恋を奪っていったくせに、と。
 お前が俺のこと好きなのは知ってるけど、お前が、俺以外の男とくっつくことがないことも、知ってるから。俺は今日も、これからも、酒の力を借りても、お前に言いたいことを言えない。

 好きだ。愛してる。結婚しよう。

 お前が望む幸せは、俺の薄汚れた手では叶えてやれないと、臆病な俺が囁く。ウェディングドレスを着て、俺に微笑みかけるナマエを思い描きながら、俺は卑怯にも、そのままアルコールのもたらす睡眠に逃げることにした。


 初恋泥棒

 (ねえ、私の恋を返してよ)