※主人公はデストロイヤーの管理者的なそういうあれ。捏造万歳。ヤマもオチもない。
ソー←主人公←←ロキ


大破したビフレスト。ナマエは、毎日のように、そこへやってきては、ぼんやりと宇宙を眺めていた。
ナマエの望み通り、ソーはアスガルドに戻ったけれど、そこに、彼の心は伴っていない。宇宙のどこかにあるミッドガルド。そこで、ソーは恋に落ちた。シフのように、ソーのことを思って身を引きたくはないけれど、ナマエが思いを告げたところで、ソーは、たぶん、困ったように笑うだけ。

『――デストロイヤーを解放しろ』
『そうすれば、兄上は戻ってくるぞ……』

ソーが追放されて、ナマエは打ちひしがれていた。ナマエにはデストロイヤーの暴走を止めるという役目があるから、アスガルド以外のどこにも行けない。
だから、ロキの誘惑に、抗えなかった。小さいころから、宝物庫の中でひっそりと暮らすナマエと、友達になってくれたのは、ソーだけだったから。
ひとりは寂しい。
そう思ってやったことが、結果的にナマエを一人ぼっちにした。
ロキの口車に乗せられたのだ、と、皆に哀れみの瞳を向けられて、オーディンとヘイムダルはすべてを見抜いていながら、しかし、ナマエを糾弾しない。デストロイヤーは、ソーの手によって破壊され、ナマエは今、自由と引き換えに、孤独だ。

ふ、と背後に気配を感じて、ナマエは緩慢に振り向いた。
嫌な笑みを浮かべたロキが中空から姿を現す。顔をゆがめて、ナマエは、視線を逸らした。

「何しにきたの」
「つれないな。自由をくれてやった相手に」
「っ、あなたは王位が欲しかっただけでしょう!?私は、こんな――――、っ」
「こんな、何だ」

なんで、あなたがそんな顔するの、とナマエは呆然としてロキを見る。人を馬鹿にしたような笑いじゃない。苦々しい顔で、ナマエを見つめている。

「……ひとりはいや」
「知っている。お前は昔から、寂しい寂しいと、うじうじ泣いてばかりいた」
「ずっとあそこに縛られたままでよかった」
「……、……」
「わたしを憐れんでソーが、来てくれたもの」

最初に会った時に、本に書かれている、太陽のようだと思った。明るく、どんな暗いところもあたたかく照らしてくれる。
す、と、片手が、ナマエの頬に触れた。意識体でしかないとはいえ、あたたかさも感触も、まるで本物。

「昔から、お前は兄上しか見ていないな」

ソーにくっついて、ロキも宝物庫を訪れていた。けれど、ナマエの瞳が映すのは、ソーばかり。こうしてようやく、ナマエはロキを、見る。

「私は、お前をひとりにはしない」
「っなに、言って、」

ロキが口先でないことはナマエでも、わかった。だって、もう自分に利用価値なんてない。ナマエがビフレストに来ると、ロキは決まって現れる。ナマエに会う、ために。

「私のものになれ、ナマエ」

ロキが、ビフレストのその先を指す。

「このどこかに、私がいる。この手を取るなら、今度はナマエから、孤独を取り去ってやる」

実体のない唇が、ナマエのそれと重なる。ゆらゆらと痺れる頭で、ナマエはそれを受け入れた。ロキは、強い瞳で、ナマエのすべてを見つめている。昔からずっと、そうだったのに、ナマエは見て見ぬふりをしていた。
一度だけ、後ろを振り向く。ソーがいるはずの、城を。けれど、すぐに目を逸らして、ナマエは、手を引かれるがままに、身を、投げた。



ふたりぼっち