待ち合わせはバス停の前。慌てて走って、ようやく着いたら、ナマエはもう、先に来ていた。言い訳する余地のない遅刻だ。

「ごめん、そのー……ごめん!」
「いいよ。寝坊?」

その通り、完全に寝過ごした。最高にカッコ悪い。ほんとに最低だと、自分でがっくりする。
スマホをバッグにしまって、くすくすと笑ったナマエの手が、僕の頭を撫でる。ちなみにそこには、今朝、まったく言うことを聞いてくれなかった寝ぐせがある。
なんだか居心地の悪さを感じながら、その手を掴み、やって来たバスに乗る。並んで座ると、居心地の悪さはなくなる。なんでだろう。

「今度の学内発表の内容がうまくまとまらなくて、」
「あ、あれ。ピーターもやっぱり出すんだ」

楽しみだね、頑張って、とにこにこ笑うナマエに、頑張らないわけにはいかない。


ナマエの希望で、まずはパブリックライブラリーへ。2人とも来るのは初めてだから、辺りを見回したり、天井画に圧倒されて、立ち止まってしまったり中々、足が進まな私。
お互いの興味のある分野が違うから、1時間後に待ち合わせて、別れた。歩いていくナマエの後ろ姿に、首をかしげる。やっぱりどっかしっくりこない、なんで?


偶然、入り込んだ書架で見つけた、キャプテン・アメリカの文字。ファンが、自費で製作した本らしく、他の本に比べて妙に異彩を放っているけど、一度戦った相手だし、と言い訳っぽく、手に取った。
…………思ったより、面白いじゃん。



やって来たナマエの手を握る。うーん、やっぱりなんか、変。

「借りなくてよかったの?」
「うん、平気。それより、お腹すいちゃったね」
「何か食べたいもの、あ」
「え?」

急に立ち止まれば、手を繋いでいたナマエも、よろめきながら、半歩前で止まる。不思議そうに首を傾げて、僕を見るナマエが、ストリートに面したガラスに写っていた。
違和感の元をたどって、彼女の足元を見るけれど、ハイカットのスニーカーにしか、見えない。
ナマエが僕の視線の先を見て、ああ、と声を上げた。

「これ、この前新しく買ったの」

かわいいでしょ、と顔を上げたナマエと、目と目があう。そこで、彼女も気づいたようだ。

「……ごめん。ピーター、これ、インヒールスニーカーだった」
「…………何インチ?」

ごにょごにょ、とつぶやかれた数字に、ぐわん、と衝撃を受ける。いつもなら心持ちある彼女との身長差が、マイナス値にいってた。
そこで、頭を過ぎったのは、あの、キャプテン・アメリカの姿。見上げなきゃいけない身長に、逞しい肉体、声も低くてかっこいい、大人の男。……うぐぐ。

「ご、ごめんね。今度から履いてこないよう気をつける」
「……や、いやいやいやっ、僕ならヘーキだから!!」

本当にかわいいし、よく似合ってる、とこれはまじで本心。必死な僕に、吹き出すように笑い出したナマエ。安心して、ようやくカフェの目の前で視線を集めていたことに気づき、僕たちは、慌ててその場を離れた。



『Sir、パーカー様からです』

おなじみのメロディに、画面に表示されるのは、蜘蛛の坊やの、名前と写真。
昨夜も、研究に関するアドバイスをいろいろしてやったのだが、今日のデートの首尾はどうだったのだろうか、なんて思いながら、トニーは、画面をタップする。
「どうした、坊や」
「''スタークさん!!最も効率的な身長の伸ばし方って何ですかね?!"」
「…………何?」


数十秒後、ラボに、腹を抱えて笑い転げるトニーの姿があった。



Boy, be ambitious!!!

(メイおばさーん!!牛乳買ってきて!!)