高い頬骨を指で辿りながら、不思議そうに見つめてくる瞳をのぞき込む。

「ナマエ?」

低く穏やかな声で名前を呼ばれるのが、好き。
私を膝に乗せて、揺るぎもしない逞しい体は、彼がヒーローであるのだと私に突きつける。
こんなにも綺麗な青を湛えた瞳なら、世界はとても美しく見えるんだろう――、なんて。
この、ものすごく醜くて、苛立たしくて、気持ち悪く、どろどろした感情を持て余す。
彼はヒーローで、英雄で、多くの人が彼に、その希望を託す。
けれど、彼は、私だけしか知らない、スティーブ・ロジャースの等身大で、接しようと、してくれる。
でも、なんでだろう。あなたを知れば知るほど、醜い想いにとりつかれていくの。
あなたの大切な人たちは過去にいる。それが腹立たしいようで、反面、嬉しくて仕方がない。どうしたらいいのか、わからない。
そんな汚い自分が、嫌いすぎて、吐きそうなの。



柔らかい手が、僕の頬に触れている。東洋人の彼女の黒い瞳は、どこか神秘的で、何かを訴えかけるようで、それでいて何も語らない。

「スティーブ、」

震えそうになる声で名を呼べば、ひそやかな吐息に混ぜるように、僕の名前を紡ぐ。密着する体から伝わる体温と、甘い匂いに、仄暗い感情がわき上がる。かみしめた唇が、ほんのりと色づくのに、そそられて。
彼女に僕を教えれば教えるほど、彼女が僕自身を見なくなるのは、どうしてだろう。
君の前では、欲を抱くひとりの男で、君のことしか見えてないのに。どうしたら、伝わるんだろう。
彼女の瞳が、いったい何を見てるのか、僕にはわからない。それが悔しい。
だから、彼女の唇を奪う。緩慢に瞬いて、潤む瞳に写る自分の姿は、醜く歪んでいて、僕にお似合いだ。
君のすべてが欲しいんだ。黒に青を混ぜてしまえば、何も残りやしない。僕のすべて――、君の黒に溶かしてしまってよ。



パレット上の空論