「どうしたんだよ?」

最初は、きちんと爪の甲高い音を立てながら現れてたくせに。今は、夢に堕ちると、隣にいる。
ぼすりと焦げ臭いズボンを履いた膝に倒れ込む。見上げると、純粋に心配そうな顔をしたフレディさんが覗き込んでくる。殺人鬼なのに、変なの。
ケロイドでひきつれた顔が、優しい笑みをつくるのだ。

「ほら、言ってみろよ」
「……学校に行きたくないんです」

静かに、ナイフのグローブをつけていない手が髪を梳いていく。穏やかな、沈黙。

「友達に疲れて、」
「ん」
「先生に会いたくなくて、」
「うん」
「クラブも怠いし」
「うん」
「…………何にもしたくないなあ」

目の前にあるクリスマスセーターに抱きつく。
フレディさんの手が髪の毛から背中に動いた。あくまで優しい声のまま。

「殺してやろうか?その友達と、先生、クラブの奴ら全員」

きぃ、ぎぃ、とわざとらしく鳴らすフレディさんに笑ってしまった。セーターに埋めていた顔を上げて、目を合わせる。

「だめだよ」
「どうして?」
「もう、わかってるくせに」

悪戯っぽく笑ったフレディさんの爪に、子供のキスを一つ。

「フレディさんは、わたしの夢だけにいてくれればいいんです」

そう言えば、大人のキスをするために、フレディさんの顔が近づく。そ、と目を閉じた。


「――ナマエがいる世界が、ぜんぶ、俺だけだったらいいのになあ」



俺だけ、あなただけ