しゃくしゃくとリンゴを頬張りながら、ロリンズは呆れた顔でナマエを見る。擦り傷と打ち身が少々、それ以外はまったく無傷で、ナマエは戻って来た。
「で、どうなんだよ」
「なにがです?」
「お前なあ……」
けろっとした顔。相変わらず、呆れるほどに、変わらない。
「あんなプロポーズ……やっぱお前、ヘンだわ」
「先輩聞いてたの?」
「ああ」
やだ恥ずかしー、と騒ぐナマエ。ロリンズはあの時、無線を聞いていた。
『わたし、隊長が好きです』
『だから…一緒に生きるか、一緒に死ぬか、どっちがいいですか?』
途中で意識が途切れたために、ラムロウの返答までは聞いていないが。爆発の寸前に、窓ガラスをぶち破って飛び出してきた2人は、すぐ裏手を流れていた川から救い出されたという。それが、答えだ。
ラムロウも、相変わらずナマエに甘いが、それ以上でもそれ以下でもない。しかし、隊長も厄介な人間に好かれたものだ。
『難しいことはわかんない。でも、わたしは隊長と一緒にいたいよ』
こいつも女なんだなあ、とぼんやり思ったのは覚えている。死がふたりを分かつまで。ナマエなら、ラムロウが地獄に堕ちたってついて行くだろうが。
少し恐ろしいが、羨ましくもある。
「おい」
ぞんざいなノックと共に顔を出したラムロウ。二、三、ロリンズに怪我の様子を訊ねてから、ナマエに輝く何かを投げつけた。
「ぅん?」
「……虫除けだ。つけとけ」
キャッチしたナマエが、それが何かを確かめる前に、ラムロウは渋い顔で行ってしまった。
「うわあ……」
呆れた声を出したのはロリンズだ。
シルバーのリング。嫌味にならない程度の小さなダイヤがきらめいて、それをナマエは、迷わず左手の薬指に嵌めた。
傍観者は笑う
"ヒーロー"じゃなくても、幸せになっていいはずだろ?