舌打ちが漏れた。じわじわと体から失われていく血を感じて、くらりときた意識を持ち直す。
 ピアースはこれを見越していたのか、今となっては知ったことではないが。ロリンズはむかつきを晴らそうとした。しかし、一人撃ち殺したくらいじゃ無理だった。

 「、ナマエどうする?」
 「うーん……」

 ストライクチームもすぐに駆けつけるだろうが、いかんせん人が多い。

 「全員始末していいのかなあ」
 「さあな。いいんじゃねえ?」

 一発で一人。正確に撃ち抜いていくナマエを、やっぱり恐ろしいと思う。あ、と声を漏らしたナマエに、襟首を掴まれて、思いっきり投げ飛ばされた。
 傷開いた。ぜってー開いた。声も出せない痛みに呻けば、防壁代わりの机の裏に滑り込んできたナマエが呑気に。

 「危なかったあ」
 「アホかッ!!!」
 「だってえ、狙われてましたよ。いまの先輩、ちょうどいい的ですもん」

 否定できないのが悔しい。ロリンズは舌打ちした。不意をつかれて、弾丸が脇腹を掠めたのだ。傷は浅いが、出血は多い。

 「とにかく、先輩を逃します。ついて来てくださいね」
 「ナマエ…」

 ちょっとじーんときたロリンズだが、ナマエはやっぱりナマエだった。

 「はっきり言ってえ、先輩邪魔です」
 「お前ほんとむかつくな!!」


 護衛対象の男は、ヒドラの敵対組織と内通していた。ラムロウが、情報交換の場を押さえ無線で連絡を飛ばすのと、ナマエ達が襲われるのはほとんど同時だった。
 途中までやって来ていたストライクチームに、ロリンズを受け渡し、ナマエは退避を命じた。道中の壁や天井、美術品の陰に、それと目立たぬようにあった。味方にも敵にも、わからないように。

 「爆弾しかけてある。最後の切り札的な?」

 首を傾げるナマエは緊張感がない。彼女の背後から襲いかかり、ノールックの回し蹴りで沈められた敵がかわいそうなほど。

 「全員始末しておーけいですね?……よし」

 ピアースからの指示をチームに確認して、ナマエはくるりと来た道を振り返った。
 聞かなくても、ラムロウのところに行くつもりなのだと知れた。爆弾のタイマーは動き出している。爆弾が爆発すると知らずに待ち構えている敵もわんさかいる。ロリンズは彼女を呼び止めた。陳腐なセリフを言うつもりはない。

 「なんですか先輩」
 「パンツ見えてんぞ」
 「あー冥土の土産にどうぞ」
 「バカ、死なねえわ」


 走り去る背中


 ほんと、アホだよ。