そもそもなんで、私、ここにいるんだっけ。

 任務中に、ふとそんなことを考えて、油断した。引き金を引くのが一瞬だけど遅れて、私が撃って死ぬはずだった敵がにやり、と笑ったから、ああ、私のほうが死ぬんだ、って思った。

 「馬鹿、ッ、」

 横合いから鋭いタックルをかまされて、ごろごろと転がりながら射線から逸れる。

 「ぃてえ、っす」

 肩がわき腹を抉って、げほごほと汚くむせてしまった。しかしこっちの言葉なんてまるっと無視したラムロウ隊長は、鉄拳をとばしてくる。がつん、と頭が揺れた。

 「馬鹿野郎」

 ばかじゃないですう。ちょっと油断だけです、と言えたのかどうか。

 「ったく……」

 ラムロウ隊長がぐちぐちと何か言っているのが聞こえない。目の前を飛び回る星を見ながら、私は気絶した。


 そもそも、だ。S.H.I.E.L.D.に入ったのは、先にエージェントになっていた友人のすすめで。彼女はいうなれば、理想に燃えた人だった。世界平和だとか正義だとかよく熱く語っていて、アベンジャーズは彼女の英雄に違いなかったのだろう。
 だのに、いつの間にかヒドラに転向していた彼女は、今度は打って変わって、アベンジャーズじゃ世界は変えられない、守られてるだけの人間には何もわからない、誰が世界を支配されているのか私たちが教えるの、と語ってきた。
 私も、流されるままにSTRIKEチームに配属され、ラムロウ隊長に必死にしごかれてるうちに、友人だったはずの彼女は"処刑"されていた。
 そう、だから…S.H.I.E.L.D.にせよ、ヒドラにせよ、私は友人によって、こんなところにいるのだった。


 目覚めると、任務は成功だった、とロリンズが渋い顔で教えてくれた。

 「この前の任務でも、お前のせいで露見しそうになった。今度は見逃してもらえないぞ」
 「そう、だろうねえ」

 注意力散漫、集中力の欠如、規律へ反抗してる、もしくは敵と内通していると"上の人"が判じれば、私は簡単に消される。目の前のロリンズの手か、はたまた隊長の手にかかってか。

 ヒドラのしていることが正しいのかどうか、私にはわからない。でもヒーローの言うことは綺麗事に聞こえるし、フューリーとピアースはどっちも同じくらい腹黒いと思う。それに、これだけ多くの人が賛同して動いてる組織なんだから、ある程度の正義がそこにはあるのかもしれない、なんて。
 今、隊長が幹部と話してる。
 ロリンズが教えてくれたが、私は隊長を探しに行かずに、屋上に向かう。ヘリポートに寝転がって、殴られて見える星じゃなく、本物の星を見上げることにする。特に理由はない、なんとなくだ。こういうなんとなくの積み重ねで生きてなけりゃ、今ここにいなかったのか、なんて不毛な。

 「……お前何してんだよ」
 「隊長」

 にゅ、とのぞき込んできたラムロウ隊長。気配ねえなあ、この人、と彼の髭の剃り跡を見つめた。
 彼のホルダーには銃がある。このまま頭を撃ち抜かれて死ぬ、とか。想像したけど、ラムロウ隊長がしたことといえば、しゃがみこんで、ぐしゃぐしゃと私の頭を撫でたことだったので、予想外の行動に固まってしまう。

 「冷やしとけよ」

 ああ、そっち。ですよねーなんて思いながら、イエッサーと返事をすれば、ラムロウ隊長は何も言わずに立ち去った。
 後でロリンズに聞いたら、ラムロウ隊長の進言で私のお咎めは一切なし。禁固も、降格もない。強いて言えば、訓練の時にしごかれるぐらい。

 ……脇腹、痛いなあ。グロテスクな内出血になったそこをさする。おそらく、あの人は私が"宙ぶらりん"だってことに気づいてる。
 そして、見逃してくれてる。自分にも他人にも厳しい隊長が。……ほら、またわかんなくなった。


 愛とかそういうの