「ねえねえ、ウェイドさんや」
「なんですかいナマエさん」
興味がないくせに、マガジンラックから引き出した雑誌を捲っているウェイド。それ面白いの?って聞いたら、そうでもない、だって。
ええい、と転がって膝に頭を乗せる。なんとまあ怠惰な休日ですこと。せっかくこんなに晴れているのに。ごろごろと青い空を眺めていると、くだらない思考が降ってきてはまた消えていくようだ。
「ウェイドさんウェイドさん」
「はいはいなんですかナマエさん」
例えば、の話。
「ウェイドは、ゾンビに噛まれたらゾンビになるの?」
「へぇ?さあねえ、どっかのアースの俺ちゃんはゾンビになったらしいけど、ヒーファクあるしなあ。ってか、そもそも今の俺ちゃん十分ゾンビじゃね?」
「確かに。顔的にもインパクトすごいもんね」
「やだ、ナマエちゃんてば辛辣」
ぱらり、とまたページが捲られる。
「ゾンビが世界を埋め尽くしたら、ウェイドはきっとみんなのヒーローだね」
「ナマエちゃん守るならいいけど、知らねえ人間助けるほど俺ちゃん優しくないぜ」
喉の奥で笑ったウェイド。窓から吹きこんできた風がすっかりあったかい。スウェットにごろごろとなついて、目を細める。
「春ですなあ…」
「お」
「ん?」
ちょいちょいと前髪を引っ張られて首を起こす。デッドプールが見ていた記事は、この前私が行きたいと騒いだ新しいドーナツショップの特集で。
「どうせなら行くか」
「えー…」
時計をちらりと見る。お昼というには遅く、夕方というには早い。暇を持て余したレディやらカップルやらで溢れてるだろう。
「混んでるだろうし、大通りだから、ヒーローモードにしろ世を忍ぶ仮の姿にしろ目立ちまっせ旦那」
「デスヨネー」
ばさり、と雑誌が閉じられた。でも、このまま出かけないというのもアレだ。そうだなあ、と、気怠げな声が出てしまう。
「シスター・マーガレットでウィーゼルさんにドーナツ作ってもらえばいいんじゃね?」
「え、あいつ、そんなの作れたっけ」
こきり、と首を傾げたウェイド。重たい体を起こして頷いた。
「知らん」
「適当かよ」
ふは、と笑ったウェイドは、それでも異論はないようで、よっこいせ、と2人で立ち上がる。ぽかぽかとした陽気に、欠伸をかみ殺すのを失敗していれば、ウェイドが塞いでくれたのだった。ちゃんちゃん。
春けらし
(ただいまー。ウェイド帰ってるー?)
(おー、遅かったじゃーん)
(ドーナツ買ってきたから食べよ)