よお。みんな大好き世界一セクシーで最高にクレイジーなデッドプールこと俺ちゃんだぜ?
これを読んでるみんなは、映画ももちろん見てくれたよな?俺ちゃんが敵をチミチャンガしてるシーン最高にクールだろ?実を言うと、今もちょっとしたお仕事で忙しいんだよね。愛しいナマエちゃんのために、コツコツ稼ぐ俺ちゃん超偉くない?
っと、危ねえ危ねえ。エイムは酷くても、油断するとこれだから嫌なんだよね、大人数と闘うのってさ。おっ、アンタで最後だな。出血大サービスだ!!なんちゃって。さ、お仕事完了っと。
――――……ただいまぁー腹減った!スーツの色が全体的に濃くなっちまったけど、これ炭酸水とレモンで落ちんのかねえ。おーいナマエ?俺のかわいいキャンディちゃん?

ぴちゃり、と、ブーツが液体を跳ね飛ばして、おや、と足元を見れば、時間が経って赤黒くなった液体が。
……ああ、そっか。俺ちゃんってば、出掛けにナマエのこと殺したの忘れてた。どおりで、いっつも背中に差してる刀が一本ないわけだ。だってそれ、ナマエの胸のど真ん中に突き刺さってるもん。
柄を掴んで引き抜けば、ぶしゃ、と音を立てて、肉の塊みたいなものがついてくる。目を凝らして、わかった。ナマエの、心臓。
 俺を見つめるナマエの瞳は濁ってて、見てるだけでキスしたくなるような可愛い口は、何か言いたげに半開きのまま。
 俺の片手に収まった心臓は、まだほんのりと生暖かくて、わずかに拍動している。とくり、とく、と。手で感じる柔らかさが愛おしくなって、俺ちゃんはたまらず、マスクをずり上げてそれにかぶりついた。ぷつり、と噛み切れる感触と共に、口の中には、不思議と甘く感じる血が溢れる。
乾き始めていたナマエの瞳が、ぱちり、と瞬いた。

「ひどいわ、ウェイド」


がばり、と飛び起きる。手でまさぐった口元には、液体の感触はなく、いつも通りのかさついたケロイドの肌。
ついでに言えば、俺ちゃんはスーツも着てなくて、上半身裸でベッドの上。隣では、ナマエがすやすやと寝息を立てている。
――夢。ひどい夢。サイテーな、悪夢。
ナマエを腕の中に閉じ込める。んん、と唸って身動ぎするのを許さずに、しっかりと。
 寝ぼけ眼が、うっすらと開いて、俺を見上げた。

「……な、に、」

どうかしたの、と聞かれる。俺の頭を撫でる手は、今にもまた眠りに落ちてしまいそうに、ふわふわと頼りない。
 ぴーちくぱーちく鳥が鳴いて、のんびりとした車のエンジン音が近づいて、遠ざかる。なんてことない、日曜日の朝。
 ナマエが、さっきよりもしっかりした声と手で、どうしたの、と聞いてきた。ちゅ、と、唇が重なって、魔法にでもかかったみたいに、ようやく俺は口を開く。



「――ふうん」

俺ちゃんの見た夢の話を聞いても、ナマエの反応はそんなあっさりしたもので、逆にこっちがガクッとしちゃう。ころり、と俺ちゃんの膝に頭を乗せて寝そべったナマエは、寝癖のついた髪をいじりながら、笑った。

「いい夢だね」
「……、…………うっそだあ」
「ほんと。愛情が最高な状態にあるってことだもん」
「あー夢占い的なやつ?」

そうだよ、と言うナマエは、むふふ、と笑みを漏らして本当に嬉しそうだ。

「それって、食べちゃいたいほど、私のこと好きってことじゃん」
「……そ。自分でコワいくらいにね」

ふざけて、がうがうと、おでこに噛み付いてやれば、押しのけられて、ちょっとショックだったり。起き上がって座ったナマエの手が、俺ちゃんの胸に伸びる。きゃっエッチ。だなんて俺ちゃんがふざけて口を滑らせる前に、さまよう人差し指の先が、中心で止まって、とん、とほんの少し肌を沈めた。
ナマエの、優しく細まった瞳の奥には、俺ちゃんの、俺の、とんでもなく情けなくて、いつも以上にひでえ顔が浮かんでいる。寝起きだからか、潤んでいて、ゆらゆらと。

「……私の心臓を食べる前に、ウェイドの心臓を私にちょうだいね」

ぶわ、って全身をアドレナリンが駆け巡った気がする。たぶん、世界中の砂糖ぜんぶだって敵わない――脳みそが痺れるくらい甘い声で、ナマエは俺が欲しい言葉をくれる。女に甘やかされて嬉しいなんて、前の俺ちゃんならダサいと思ったよな。
 でも、こんな姿になっちまってからは特に、こうやってどうしようもなく甘やかしてくれる相手がいねえと、どんどん息がしづらくなる。
 ナマエの手を握って、ほんの少し位置を直す。

 「抉るならここな」

 きょとんとするナマエに、笑う。

 「ナマエが心臓持ってってくれたら、俺も一緒に死ねるかもしんないし、なんちゃってね」
 「わ、」

 そのまま胸に抱きこんで倒れこむ。キス、キス、キス。触れてるとこから溶けちゃえばいいのに、なんて、今日の俺ちゃんまじで乙女じゃん。
 イイ雰囲気にほくそ笑んで、覆い被さろうとしたら、ナマエは無情にも目を瞑っていた。

 「ちょ、……嘘だろ、おいナマエちゃん?」

 軽く肩を揺するけれど、聞こえてくるのは不明瞭な声。そして、すやすやとお手本みたいな寝息。
 昨日も仕事で、疲れてるのは知ってるけど、そりゃあないだろ?俺ちゃんの俺ちゃんは準備万端なのに!!!



戯言と睦言と