If destroyed for...



だって仕方がないじゃないか。
そういう“ふり”をしてないと、私も貴様も、自分を保てなかったんだ。
全てを知っていながらそうする事しか出来なかった。
それが全てにしかなりえなかった。



++If destroyed for...++



昼間の騒々しい程の喧騒が消えた談話室は、今は私一人きりで、酷く静かだ。
深夜に近いこの時間は、息を潜めてしまえば容易に気配が消せるだろう。
私はそこで今日出された課題を片づけていた。
別に、その課題は明日必要だと言う訳では無かった。
それでも今日出されたものは今日片付けておかないと気分が悪かったのだ。


後、三行。


そう思った時、突然誰かに頭を捕まれた。
と、同時に机へと押しつけられる。
ガツン、と、鈍い音が響いた。
インクの瓶が落下して砕ける音を聞いた。
後で片付けなくてはいけない。
痛覚がまったくないと言う訳ではなかったが、不思議と痛いという感覚はなかった。
もう、この程度の痛みには慣れてしまっていたのかもしれない。


「今晩はスニベルス。勉強熱心だね」


頭上から降る声。
ああ、やっぱり。


「ご機嫌ようポッター。何故貴様がここに?」
「やだなぁ、僕にかかれば不可能な事は無いって知ってるでしょ?」

ポッターはそう良いながら私の頭から手を離す。
私は乱れた髪を手で払って適当に正すと、杖を一振りして砕けたインクの瓶を直した。
瓶は、氷が凍るときのような微かな音を立て直ると、元々置かれていた場所へと戻った。

「ふん、大した自惚れだな」
「自惚れじゃないのは此処に居ることが証明してる」

ポッターは少し腰を屈めると目を閉じて私に軽く口付けた。
ああ、何時もの事だと思い私は目を閉じなかった。
おそらく私は、自分でも自覚するほど冷めた目をしている。

「随分とつれないね。僕に会いたかったくせに?」
「それが自惚れだと言っているんだ」

ふうん、とポッターは面白くなさそうに私を見下ろす。
私はそんなことお構いなしに再度レポートの続きを書き始めた。

別に反抗するつもりでそうしたのではない。
ポッターに関わっていては、いつまでもたっても課題が終わらない。
そう思ったからだ。


「……今日は、ヤケに生意気なんじゃない?」
「貴様の思い過ごしだろう?」
「思い過ごし、ねぇ」

その声に、思わずチラリと盗み見たポッターの目が、スッと細められた。



闇を思わせるような、彼特有の、酷く冷たい目だ。



ハッとした時は既に遅く、気が付いた時には既にポッターの指が私の首を掴んでいて。
そのままグッと力を込められる。

「あんまり生意気だと、殺しちゃうよ?」
「あ、くっ……やめ、ろ」

ポッターは片腕で私の体を持ち上げるようにして首を絞め上げている。
それなのに私は、それを両手ですら外すことが叶わない。


「このまま殺すのには、どれくらい時間がかかると思う?」
「……っは、知ら、ないっ」


私の生死は今目の前の男が全て握っている。
魂の端を掴まれ、弄ばれているという感覚が、居心地が悪いはずなのに心地よい。
一種のパラドクス。
なんて倒錯的。



酷く、惨めだ。





ふと、ポッターの手から力が抜けた。

「ぐっ……ごほっ」

足ががくがくと震えていて、全く力が入らない。
ずるずると膝をついてしゃがみ込んで。
咳き込んで。
ようやく取り込まれた酸素に、肺が痛んだ。

痛みと苦しさに、涙が零れた。

「ねぇ怖かった?本当に死んじゃうと思った?」

言いながらクスクスと喉の奥を鳴らして楽しげに笑うポッターの、それでも笑わない目が。

目が、酷く恐ろしかった。


「貴様は、おか、しい」

切れ切れになる言葉。
呼吸をするたびに、潰されていた気管支に痛みが走った。

苦しい。
怖い。
今すぐにでも逃げ出したい。
この男は狂っている。
くるっている。


「そうだね」


だけど。
だけれども。


「でも、そうさせてるのは君だろう?」

髪を掴んで顔を引き上げられて。
痛みに顔を歪めながらも見たポッターの顔は、何故か酷く優し気だった。


鼓動が痛い。

ポッターは狡い人間だ。

ふとした瞬間に、酷く苦し気な、切な気な目で見るから。
今にも泣き出しそうに、瞳を揺らすから。



「ごめんね?セブルス」

今まで掴んでいた髪を撫でると、ポッターは私の頬に一つ、キスを落とした。
私を抱きしめたポッターの体温が心地よくて、逆に居心地の悪さを感じる。
悔しさに、また視界が滲んだ。


どうしてなのだろう。
私もまた、やっぱり狂っているのだろうか。


「優しくしてあげたいけど、僕、やっぱり君が嫌いだから」


その腕の温もりの中、彼を許してしまうのだ。


「そんなこと、お互い様だろう?」


私は決してポッターを抱き返さない。
それはあんまりといえばあんまりな扱いを受けている私の、小さな抵抗だ。
ポッターはきっとそれに気付いている。
だからこそ、余計に私に辛く当たっては、またキツく抱きしめるのだ。




いつか彼は、想像しうるかぎりの残酷な手段で私を殺すだろう。
そしてまた、いつか私も、彼を殺すかもしれない。
歪んだ、酷く醜悪に歪んだ世界の、それが掟だ。




そうして、さらに深く墜ちてゆくのだ。

「大嫌いだ。貴様なんて」
「うん。僕も、君が大嫌い」

そういう、“ふり”をして。






侵食されるべき光と影は、陰陽が入り混じり混沌と化す。
そのいっそまがまがしい程に歪んだ世界は、それでも、それが私の世界の全てだ。

いつか互いを喰らい尽くしてさえ、その身を滅ぼし朽ちるまで。
鍵は、まだ開かない。


捕らわれた、虚構の世界で。



『檻』





END+++++





わぁ……☆あんまりと言えばあんまりすぎるだろ!
えっと……ごめんなさい。書いてる綾瀬は楽しかったです(遠い目)
日記に間違えてアップしてからちょっと手直しをしました(痛)
とりあえずハリポタ部屋も作りたいと思い出した今日この頃です(末期だな!)
(06.03.14)


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