癇癖手技者の恋



彼はいわゆる完璧主義者なのだ。
そして尚且つ、小さな子供のようだ。




++癇癖手技者の恋++




彼の書く漫画は、彼のその特徴を最大限に具現化していると言っても良い。
書き上げるスピードもさることながら、群を抜いた丁寧な描写にアーティスティックなイラストたち。
非の打ち所が無いと言っても過言では無い。



そして彼の知的好奇心は、酷く幼い子供のようだと思う。
まるで冷徹な観察者のような目で対象を見つめ、その完璧主義故に余すことなく調べつくそうとする。
その割に、調べ終え満足したモノにはこれっぽっちも思い入れをしないために、興味の対象がころころと移って行く。
彼が書き終えた原稿には大した興味を持たないのも、きっとそのせいだろう。






彼のその性格は、食生活にすら現れるらしい。



思い立ったら即行動な彼は、『食べる』と言うことに興味を示した途端キッチン、ないしはレストランに入る。
しかし、そもそも仕事がインドアな彼は、食事は家でとることが多々ある。
彼の器用さがそうさせるのか、一人暮らしを続けるとそうなるのか、はたまた彼の性格のなせる技なのか。
仗助は目の前に置かれた湯気の立つ皿を見つめて少し考えた。
彩り鮮やかで、どこからどう見ても美味しそうなそれは、たった今彼の手によって産み出され、コトンと小さな音を立てて置かれたのだ。


仗助にとっては丁度下校時刻だったが、彼にとっては丁度“今日の食事時”だったらしい。
タイミングを計ったようにその時間に訪れた上がり込んだ仗助に、彼はいつも以上に露骨にいやな顔をして見せた。

『料理なんてあんたにできるのかよぉ』

そう言ってからかったら、眉間に寄った皺がますます深く刻まれた。
一人分作るのも二人分作るのも手間としては対して変わらないと、彼は己の名誉のために仗助の分まで食事を作り、その確かな腕を証明して見せたのだ。
例のイタリアンレストランの主人のような鮮やかさは無いにしろ、卵焼き一つもろくろく作らない仗助からしてみれば、それは見事な手際だった。


そして見た目に負けず劣らずの美味。


「うまいっすね」

そう素直に仗助が言うと、その完璧主義者はふふんと満足げに鼻で笑った。
そのことで彼の食事に対する興味は既に潰えたらしく、自分の前にも置かれた料理を行儀悪く、さもつまらなさげにつついてみせた。
フォークの先で必要以上に小さく切り分け散々転がして弄んだ後、ようやく思い出したように口に運ぶ。
元々人間の3大欲求のうちの食欲が、彼の場合大幅に欠落しているのかもしれなかった。
食事を途中でやめてしまうなんてざらなのだろう。





(通りで、折れそうな程にほっそりとした身体をしている)





仕舞にはフォークをぶらぶらと揺らしながらぼんやりと窓の外を眺め、完璧に食事がなおざりになったのを見て、仗助はため息をついた。
食事を初めてから30分強、仗助の皿は既に空になっている。
成長期の食べ盛りの男子がまともな食べ方をしていれば、それが普通だ。
彼だって、別に普通に食べていれば食事速度はそう遅い方でも無いはずなのに。

「いっそ、食べさせてあげましょうか?」

思わず、口をついて出たその台詞に彼は勿論、仗助自身も怪訝に思った。
俺が、彼に?
何故?

「どうしてこの僕が、お前なんかに赤ん坊のように食べさせて貰わないといけないんだ?」

まるで心を読んだかのような至極真っ当な彼の質問に、仗助は表面上は飄々としながら頭の中で全力で言い訳を捜した。
そして考えた結果、お決まりの憎まれ口がするりと出て来た。

「赤ん坊のように食べ物で遊んで全然食わないのはあんたでしょおが」

そう言って挑発してみたら、ますます後に引けなくなった自分に気が付く。
更に言えば食事を作って貰って置いて、言う言葉でも無いだろう。
しまったと思ってももう遅い。
彼は元々鋭い目を更に吊り上げ、仗助を睨み見た。
その流れのまま彼は手にしていたフォークを上に持ち上げ勢い良く振り落とした。
フォークは空で一瞬だけ光を乱反射させ、大袈裟な音を立ててテーブルに突き立った。

仗助は予想だにしなかった彼の行動に、呆然としたまま言葉を失った。
唖然とした仗助に少し満足したのか、彼は台無しになった料理が乗った皿を持って立ち上がると、それを無造作にゴミ箱へ突っ込んだ。
皿ごとだ。
分別なんておかまいなしなのかもしれない。



未だ口を間抜けにも開き、ポカンとしたままの仗助をよそに彼は仕事部屋へと消えていった。
その時のドアの閉まる、パタンという音にようやく仗助は我を取り戻す。
もうしばらく彼は仕事部屋へ引きこもったまま出てこないだろう。
仗助は、とりあえず衝撃に歪んだフォークを引っこ抜くと、フォークと点々と穴の開いた机を直してみた。
直してみてから、頭を抱えた。





(どうして、いつもいつもこうなってしまうのだろうか)





仗助は自分の感情をまだ知らない。
彼もまた、自分の感情を知らないでいる。
だから彼等は気づけないのだ。
どうしていつもいつもこうなってしまうのかが。




そして恐らく、彼等は一生気づかないのだ。





END+++++




初めて書いた仗露です。
タイトルがふざけ過ぎているあたり、よっぽど浮ばなかったんだと思います。
可哀想な人が書いたんだと思います←
読み返すとなんとも小恥ずかしいですね!
(08.10.07)



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