思考少年



最初に小さな傷を見付けた。



++思考少年++



見付けたら気になって、気になって、少し突いた。
突いたら何か違和感を覚えて、少し引っ掻いた。
引っ掻いたらその存在が明確になり、やたら目に付いた。
後はただただ、弄ってなぶってこねくり回してこねくり回してこねくり回して、気が付いたら真っ赤に染まっていた。
辺り一面、血、血、血。



(!)



ふむふむさてさて。
一体全体何がどうしてこうなった?
ああそうだ。
最初に小さな傷を見付けた。
傷を意識して意識して、ほぼ無意識にそれを弄んだ結果がこれだ。

なんというパラドックス!

気になるものや触ってはいけないものにはむしろもう本能的に多大なる好奇心を抱いてしまうのが悲しき人間の性だろう。
見たくないのに見たくないのにそれはキチンとそこにある。
なんてグロテスクに醜悪に、ぱっくりと大口を開けた傷だろうか。
ああもうまったくどうしようもなく気になる気になる気になる気になる。
これがもともとはあの小さな傷だったって?
馬鹿な事を言っちゃあいけない。


なんて、まあこれを自虐的に四字熟語で表そうとするのであれば、『自業自得』と言う他お似合いな言葉は今の僕の語彙の中では見付けられない。
もしくは『因果循環』だ。
この“瘡蓋を捲りたくなる”と入ったような衝動的好奇心は、もう因果といってもいいだろう。
つまりはそういう事なんだが、そもそもの元凶である、この“傷”は一体何故どうしてここに生まれたのだろう。
はて、それだけがどうにも皆目解らない。


どこかに引っ掛けたのだろうか。
だがしかし、僕はどこかに傷が出来るほど引っ掛けておいて気付かずにいられるほど鈍感でもないし無神経でもない。
むしろそういう事に関しては我ながらやけに細かく気が付く方だ。
恐らく、生活の大半を共にしている承太郎が、そういう事に関して酷く鈍いせいかもしれない。

その無頓着さの、半端無い事といったらもう!

彼の痛覚はまったく欠落しているのでは無いだろうかと疑問に思うほどだ。
他人の傷や血だからこそ余計にそう感じるのかも知れないが、時には眉を潜めて小さな悲鳴をあげてしまう程の怪我にすら、彼は僕が指摘してからいつもの無表情で淡白に「ああ、気付かなかった」と言うだけなのだ。
まるで「この程度の傷に気付くお前が不思議だ」とでも言うかのように。

努々恐ろしい。

だいたい彼は何をするにも大雑把過ぎていけない。
彼の場合大雑把と言うよりはむしろもう不器用の部類に分けられるかもしれないが、確かに元々持ち合わせている性質が根本から既に僕とはまったく違うのだろう。
そのくせ妙なところで意外にも気が合うから本当に質が悪い。
昔はそれで良く一喜一憂したり喧嘩もしたものだ。
しかしまあ、彼のそんな不器用さに随分助けられているのも事実だし、そんな彼でも好きなのだ。
いや、そんな彼だからこそ、好きなのだ。

彼は、彼だからこそ、此処に存在して果ては僕に様々な感情を与えてくれる。
このまま、ずっと、彼は彼でいるべきなのだ。





「……院、花京院!」
「と、驚いた」

つらつらと思考を巡らせていたところに突然割って入るようにして耳元で聞こえた承太郎の大声に、ぱったりとそれが遮断された。
あまりの声量に鼓膜が痺れ耳が痛い。
僕は耳を庇うようにして手で覆った。
キーンと高い音が、耳孔のなかであちこちで跳ね返り反響して聴こえる。
まったく、

「耳元で叫ばないでくれよ。見ろ、君のお陰で耳鳴りがする」
「てめぇが何時までも返事しやがらねぇからだろ。かれこれ10回近くは呼んだぜ」
「そうだったのか?それはすまなかった」

考えると言う行為に没頭しすぎると、どうも注意力が散漫になっていけない。
僕はそれが少々他人より酷いらしく、思考から我に返り、はっと気が付いたら歩き始めたその場から一歩も動いていなかったということもしばしばある。
それを自覚しているから、僕は素直に彼に謝った。

「それ、血ぃででるぜ」

承太郎に指さされ、その指の示指す箇所をつられるようにして見やれば。
そこには思考の発端となった“傷”

「ああうん、そうなんだよ。気になって触っている間に広がって血が出てまって」
「……手当しろよ」

あ、今呆れた顔をした。
普段と立場が逆なだけになんだか若干悔しくて憎らしい。
それにもうこの血は乾いているのだ。

「その必要はない」
「その様だな」

承太郎はお決まりの、やれやれだぜ、を披露してみせると僕を見てにやりと笑う。
ああ、その顔は好きだ。

「それで?一体そんな長時間、何を考えてた?」

そう言われて、僕ははたと本題を思い出す。
随分と思考が横道に逸れてしまったようだが、そもそもの事の発端は要するに。

「小さな傷を見付けてね」
「それがか?」
「うん?さっきも言ったが弄っていたらいつの間にか広がって……」

そう言えばどこで怪我したのだかの答えがまだ見つかっていない。
そもそも僕が血が止まり乾くほどの長時間考え込んでいたのは、その答えを見付けたいがためだった。
しかしどうして僕は、僕が気付かないうちに付けてしまった些細な傷に気が付いたのだろうか。
矛盾していやしないか?
それじゃあ何をしていた時にそれに気が付いたかを考えてみようか。
ええと、そうだ、確か……

「オイ。オイ花京院!」

承太郎が何か僕の名前を呼んでいる。
心なしか『しまった』とでも言うような顔をしているのは気のせいだろうか?
うん、きっと気のせいだ。




僕は再び思考の深い海へと身を沈めた。





END+++++




ギャグなんだかほのぼのなんだか良く解らないものが出てきたのでUPしてみたと言うww
多分気持ち悪いものが書きたかったんだと思います。
そんな綾瀬が一番気持ち悪(ry
(08.10.07)



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