アルカロイドロジック



皮膚を裂き、血を啜り、肉を噛(は)み、骨をしゃぶる。
そんな関係に、うっかりどうしようもなく焦がれてしまったのだ。
とは言え俺は本当に人喰い鬼に成り下がる程悪趣味でも、またそれほどの勇気も持ち合わせている訳ではないから、きっとやはりそれは憧れに過ぎず夢にも成りはしないだろう。




++アルカロイドロジック++




パァン!


渾身の力を持って殴りとばしておいてから、ああ痛いだろうなぁと、極めて当たり前の事を極めて冷静な頭で考えた。

(冷静?俺は果たして本当に冷静だろうか?)

平手を打った掌がじんわりと熱を持ち、次第にピリピリと痺れてくる。
純粋な愛はどこまでなら、辛うじて正気の愛と称せるのだろうか。
左脳からジクジクと腐りだして思考能力がどこまでも低下した末にとうとう蛆まで湧き出した気分だ。
きもちわりぃ。
喉元に迫る異物感に、込み上げる吐き気を堪えて目の前で顔を歪めるその男を見やった。

「痛……」

無惨の一言に尽きるほど赤く腫れ上がった頬をその手で庇うように押さえて呻くように彼はそう言った。
呻くようにというか、実際彼は痛みに呻いてもいた。
おお、なんと真っ当な反応か。
痛みを痛みと認識し感じ得られるその内は、彼はまだまだ正常と言う事が出来るだろう。
その意外さに俺は奴を観察するようにまじまじとみつめた。

「一体…何なんです?急に」

苦虫を噛み潰したかのような苦渋に満ちた顔をして、口内が切れたのだろう、口端から零れた血を手の甲で拭った。
ヨーロピアンの白色人種特有の膚には、果たして赤い色がよく似合う。
殊更こいつに関しては己の血がよく似合う、と思う。
普段聖人君子のフリをして理性の下に押さえつけている嗜虐心がかき乱され、欲望が暴かれるかのようにして引きずり出されるのだ。
拭った手の甲と顎にベットリと付着したその紅い体液がなんとも言えず、ゾッとするほど妖艶だ。
まるで気が遠くなるじゃないか。

「なんとなくだ。わりーかよ」
「なんとなくで人を殴るんですか?それじゃあ君はとんだサディストで」



パァン!



この際、と思いついでにもう一発、今度は反対の頬に平手打ちを、勿論渾身の力を込めて食らわしてしてみる。
今度は構える隙も与えられなかったばかりか言葉の途中であった彼は、思い切り舌を噛んだらしくボタボタとだらしなくその形の良い唇から朱色の血を垂らした。


ぞくぞく、ぞくぞく。


意図せずと持ち上がる自身の口角に、その時俺はようやっとあの吐き気は吐き気ではなく呆れる程に狂おしい狂喜だったのだと確信をした。
気が付いたら気が付いたで余計に気分が高ぶり高揚する。
背筋が震えるほどの歓喜に俺は思わず馬鹿みたいに高笑いをしながら身悶えた。


「楽し、ですか…?」

当然、突然唐突に笑い出した俺を不信に思った彼は、心底薄気味悪そうに、それも少々の侮蔑を込めて俺に質問をした。
若干舌が回っていないところがさらに哀れさを煽る。
それにしてもなんという愚問。

「楽しいな」
「あ、そ……」
「痛いか?」
「当た、前です。耳、鳴りがす……」

彼は非常に独創的なスーツが血で汚れるのも気にせずに、片耳を押さえてふるふると首を左右にふった。
伏し目がちになるその目で彼は何を見ているのやら、その奥で何を考えているのやら、一向に解らない。
(無論解る気も、無い)
頭一つ分小柄な彼は、俺の目線からは常に見下ろす形となる。
整えているのか整えていないのか今一つ明確には解らないその髪が目について指を絡めてみたら、ワックスの類をつけていないそれはするすると指から抜けていった。

「な、に?」

血を流したからか痛みからか(恐らくは両方)、どことなく青ざめた血の気の無い顔で彼は顔を上げた。
俺は彼の言葉を無視してつい今し方優しく触れたその髪を乱暴に掴んで自分の方へと引き寄せる。
痛みに更に歪んだ彼の顔が視界いっぱいに広がって、俺は途方に呉れそうになる程の快感に身震いをした。


一体全体どうしたら、俺のこの気狂いしそうな程の熱情が、こいつに全て伝わるだろうか。



「んっ、く…」

自分でも喰らい付こうとしたのかと勘違いするほど乱暴に口付けて、引き千切ろうとしているのかと勘違いするほど舌を絡める。
もはや鉄の味しかしない。
まるで飢えた野獣のような浅ましさに我ながら失笑する。
ガクガクと膝を笑わせた彼は、抜け落ちそうな体を支えようと俺の腕に縋り付いた。

「っの、サディスト…!も、苦し……」

切れ切れに息を乱しながら紅潮した頬で目に涙を溜めだらしなく真っ赤な涎を垂らしたその顔で。
激しいキスに身体能力を奪われかけ腰の抜けそうなその躰で、俺を罵るのか。
なんという茶番。
くだらないくだらない。


俺は彼の細い首筋の形を確かめるように指を這わし皮膚をなぞると、徐々に力を込めて気管を圧迫してみた。
表情を強ばらせた彼はもはや怯えるとかそういった表情ではなく、むしろ茫然と言った方が近い表情をしている。


「うるせぇんだよ、この淫乱マゾヒストが。そのサディストに酷くされて悦んでるくせによ」


ああ、誰が否定なんざするものか。
俺は間違いなくサディストだ。
しかしそれなら殆どなされるがままにそれらしい抵抗を見せないこいつはマゾヒストに間違いない。
ならば何を遠慮することがあろうか?


欲しいままに喰らえ!



「離し…て…」
「離して欲しいならよ、抵抗したらいいだろ?」

彼の顔からふと一瞬にして表情が消え、俺がその事に驚きほんの少しだけ手の力を抜いた瞬間、目の前が真っ白になった。
視界は一瞬揺らいだ後、直ぐに真っ直ぐに修復されてゆく。
左の頬が熱を持ち、痛いのか熱いのか直ぐには区別が着かなかった。
思わず手が離れ自由になった彼はつまらなそうに乱れた服を正すと、これまたつまらなさげに俺を見つめた。


「あなたの言う抵抗って、こういうことですか?」



ああ、まったく本当に。
ぞくぞくする。





END+++++





初めて書いたアバフーです。
初めて書いてこんな血生臭くなるとかよっぽどアバフーはDVで成り立っているんだと思い込んでるとしか思えませんね!
本当……全力で謝りますご免なさいご免なさいご免なs(ry
ボコリ愛、好きなんです……!(変態宣言)
(08.10.07)



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