葉書



葉書が届いた。

こんにちは。
郵便です。

君から葉書が届いた。



++葉書++



そもそも僕らの関係は、言葉で表せられるようなものではなかった。
もともと無口で胸の内に言葉を閉じ込める君とのことだから、それは余計にそうだったのかもしれないけれど、僕らは必要以上の会話をしなかった。
『目で会話をする』
それはまさしく君とだから成立したのだ。
何も言わなくても、目と目を合わすだけで互いが互いに求めていること全てが伝わった。
後は名を呼ぶだけで良かった。





だからその時が来たのも感覚でわかってしまった。
僕等はそれが常だったし言葉による表現などはやはり二の次だったのだろう。
僕は彼が僕にとっての一番で、それ以上も以下も無い。
僕には彼だけなのだ。

彼に出会うまで僕は孤独だった。
一人きりで友達はおろか両親すら信用できず、気のおけない人間は誰もいなかった。
故に彼と出会うまで孤独という存在を知らなくて、ようは彼にそれを半ば無理矢理教えられた様なものだった。
しかしてそれは僕にとってさしたる問題ではなくて、つまるところ彼が僕と生活を共にしていた以上、考えるべきような問題では無かったのだ。



空条承太郎とお別れをする。


彼は、知人の紹介で知り合った女性とお付き合いをする事になったのだ。
確かに僕らは付き合ってはいなかったしそう言った関係とはまた別の次元の所に居た。
だから別に彼は僕にはそのことをことわる義務は無かっただろうに、恐らく彼の中で義理があったのだ。
言うなれば彼と僕とは非常に都合の良い関係で、一言で表すとしたらセフレだった。
僕と彼との内的関係を言葉で表現すれば到底1日かかっても説明しきれないのに、外的関係を表現すれば、たったの3文字。
たった3文字の関係だったのだ。



そのまま何とはなしに次第に会う回数が減った僕等は、大学を卒業し、そして一切会わなくなった。




それから暫くの年月が経って僕が再び孤独に慣れた頃、彼から一枚の葉書が届いた。
無口な彼に相応しく、『近い内に会えまいか、話がしたい』と端的に短い内容だった。
僕はその葉書を読み、心臓が一気に底辺へと沈み込んだ気がした。
つまり僕は彼のその短く書かれた文字からですら、彼の伝えたいこと言いたいことを読みとってしまえるのだ。





目の前で彼はブラック珈琲をホットで、僕も同じくブラック珈琲をホットで注文した。
別段砂糖やらミルクやらを入れた訳では無い。
それでも小さなティースプーンでカチャリカチャリと冷ますようにかき混ぜる僕の前で、まだ多量の湯気を立ち上らせる珈琲を彼は静かに一口、二口飲み下した。

「結婚するんだろ?」
「ああ」
「今幸せかい?」
「……わからねぇ。しかし不幸ではねぇ」
「そう」

僕も珈琲を一口、二口。
かき混ぜすぎてとうに冷めきってしまったそれは、この上なくとても苦かった。

君は結婚をする。
僕から離れて、僕の見知らぬ女性と結婚をする。
安定した普通と言うことの幸せを、無意識のうちに求めるのだろう。
それを与えるのは僕では出来ないことなのだ。
どう足掻いても君の選んだその女性にはかないっこない。
そもそも僕らの関係はひどく曖昧で、そのくせどこまでも明確なものだったのだから、僕にはそんな事を思う資格さえ無かったのかもしれない。
僕が逆立ちしたって出来ない事を彼女はきっと平然とやってのける事だろう。
それが世の常でそれ以上も以下もない。
君はその奇跡に恵まれたのだ。
君以外を受け入れる事が出来ない僕にはまさしく途方もない奇跡を、君は容易く手に入れたのだから。

「元気な子を作ると良い。快活で明朗な、元気な子を」
「ああ、そうだな」
「君でその血筋を絶やしたら、僕は承知しないぜ」
「……ああ」

同じ様に冷めてしまったであろう珈琲の残りをグイと飲み干すと、伝票を持って彼は立ち上がった。
僕はそれを手で制すと、彼の手から伝票を抜き取った。

「僕が払おう。結婚祝いだ」
「そうか、すまない」

そうして彼の珈琲代と僕の珈琲代、2つ合わせても安い結婚祝いを支払った。
音もなく開く自動ドアに、やはり僕らも無言のままに店を出る。
むしろ僕らにはそれがふさわしいような気がして少しだけ可笑しかった。
店を出て、じゃあ元気で、と別れを告げて。
もう二度と会うことは無いのだろうなと思いながら歩き出した僕を、おい、と彼が呼び止めた。



「俺は、確かにてめぇが好きだった」
「……そう、ありがとう」



いったん止めた足を、振り返ることなく再び動かしてその場を足早に立ち去った。
君は今どんな顔をしているのだろう。
そして僕は、どんな顔をしているのだろう。



振り返れない。
鏡も見れない。
ただただ僕は涙を零した。




──君は、
君は随分とお喋りになった。
言葉など僕らには必要なかったし、今更言うまでもなくそんなこと解っていた。
それでも確かなる言葉で、しかし過去形で発せられたその言葉は、僕の涙腺を刺激して柄にもない涙を零させた。
この変化も、やはり彼女が彼に起こさせたもので、必要ないと言いながら強がり端っから投げ出していた僕には出来ないことだっただろう。

しかし、しかし今更。


それは狡いじゃあないか。
自嘲するように少しだけ笑って、それから本当に声をもらして笑った。
そうしないと精神の均衡が保てなくて、ただひたすら阿呆みたいに笑い続けた。
僕に昔、寂しいだとか人恋しいだとかそう言った感情を教えたのは彼の癖に。
そして今再びようやっとそれに慣れた僕に今一度それを教えるなんて、狡いじゃあないか。







彼の結婚の知らせも、出産の知らせもまた、一枚の葉書によって伝えられた。
僕はそれぞれに、親友として気持ちを込めた郵送をした。





END+++++





多分これを書いたときはよっぽど承太郎がパパになってたこと事が衝撃的だったんだと思いますww
花京院が生きてたらまた話は変わってたんでしょうか(←夢見がち)
しかし承花はなんだかあっさりした関係で書くのが好みのようですね!
このバカップルめ!ってぐらいべたべたしてるのも好きなんですけどNE☆(笑えない)
(08.10.07)



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