「…んん?」

不意に目が覚めた。昨晩、いつもよりも早めに眠りに入ったからだろうか。枕元に置いてある時計を確認すると、針はまだ明け方を指していた。完全に起ききっていない頭で、今日の予定を確認する。今日は珍しいことに非番で、任務はない。武器の手入れと、書物を漁るのを午前中に済ませて、午後からは鍛錬しようか。確か明日も非番だったはずだから、今日は体術、明日は忍術に磨きをかけようか。その前に二度寝してしまおうか。
そんなことを考えながら、寝返りを打つ。目の前に広がったのは、淡い桜色。

「…間抜けな顔」

気持ちよさそうに眠るその頬に、そっと手を添える。彼女とは半同棲生活をしている。一緒に眠ることだって稀ではないが、この寝顔は何度見ても飽きることがない。柔らかな頬にそのまま手を滑らせる。

「んー…」

くすぐったかったのか、微かに彼女が反応を示した。その反応すら愛しくて、思わず顔の筋肉が緩む。

「…サクラ」

愛しいその名を呼べば、まるで聞こえたかのように頬を擦り寄せてきた。その仕草が小さな子どものようで、いつも凛々しい彼女が幼く見える。
二度寝をしようと思っていたのに、もう随分長いこと彼女の寝顔を楽しんでいる。

「サス、く…」

彼女は今どんな夢を見ているのだろう。幸せそうな顔で己の名を呼ばれいい気分だ。その広い額にそっと唇を寄せれば、彼女は俺を抱き枕のように抱きしめてきた。普段からは考えられない大胆な行動に少し驚きながらも嬉しく思う。

「…ふふ」

よほど幸せな夢なのだろう。抱きしめてくる力が、ほんの少し強くなる。彼女の顔にかかった髪を耳にかけてやる。長い睫毛に、桜色の唇、透き通る肌。どれも俺を魅了する。

「…んっ」

一瞬彼女の眉間に皺がより、ゆるゆると開かれていく瞼。しばらく焦点が合わなかった翡翠のそれは、ゆっくりと俺の視線と交わった。

「はよ」
「おは、よー…?」

まだ寝ぼけているのか、大分舌足らずだ。俺の胸に頭を預けたまま、ぱちぱちと瞬きを繰り返していた。

「任務は?」
「今日明日とない。お前は?」
「ないー…」

再びうとうとし始めたサクラの頭を撫でてやる。そうすると、嬉しそうに頬を擦り寄せてくる。寝ぼけたサクラもいい、なんて思っているのはサクラには秘密だ。

「なんの夢見てたんだ?」
「ゆめ?…あー」
「幸せそうな顔してたから」
「ん…サスケくんの、夢」

にへら、とだらしない顔で笑ってくる彼女に思わず胸が甘く締め付けられる。これが無自覚なら、タチが悪い。

「そう、か」
「うん。…サスケくん」
「ん?」
「サスケくんのにおいね、安心、するー…」

サクラはそこまで言うと、再び夢の世界に旅立ったようだ。すやすやと眠るその顔は、やはり見ていて飽きない。

「こっちの気も知らないで…。今夜覚えとけよ」

悪態をついてみるも、彼女には既に届いていない。時計を見れば、まだもうひと眠り出来そうだった。彼女の額にもう一度口付けると、彼女を抱きしめて目を閉じた。



目が覚めたら
(おはようと言って、それから)


20120826



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