俺がこの里に帰ってきてから、大分経つ。依然里からの軽蔑の眼差しは消えないが、当初よりはましになったと思う。危険と隣合わせの任務や暗殺の仕事も大分減り、あの金髪馬鹿のおせっかいのせいなのだと最近知った。
少しずつ回りが変わっていく。少しずつ。

「サスケくーん」
「…入れ」

アカデミーの頃から知っている彼女。泣き虫で、か弱くて、負けん気が強い。班員の中で一番頭が良くて、チャクラコントロールが上手い。しつこい。
それだけの認識だったんだ。

「じゃ、検診始めるね」
「ああ、頼む」

弱いと思っていた彼女はいつの間にか立派な忍へと成長していた。検診の為とは分かっているが、向けられる視線に思わずドキリとする。
どこかで、俺たち三人は変わらないと思ってた。馬鹿と彼女が話していて、俺がそれを傍観していて。それに気づいた二人が手招きして。

「…はい、検診終わり」
「…ああ」

記録をつけている彼女を盗み見る。少女だと思っていた彼女は、芯のある女性へと成長していた。その過程を見られなかったのを、少し悔しくも思う。

「サクラ」
「ん?なに?」
「髪、少し伸びたな」

彼女の髪を一房取り、指先でくるくると弄る。会話に困ると、俺がいつも使う方法。彼女もそれが分かったのか、近頃は一緒に髪を弄るようになっていた。

「今ね、伸ばしてるの」
「そうなのか」
「うん」

綺麗になった、と思う。花が綻ぶような笑い方をするのは前より知っていた。いつからなのだろうか、そこに艶が出てきたのは。異性としての対応を取るようになったのは、いつからなのだろうか。

「今日で検診は終わりだけど、あんまり無茶しないでね?」

最初は拒んでいたこの検診も、どうやら今日で最後らしい。これ以上近づけたくないと思っていた彼女を、誰よりも近くにいてほしいと思ってしまったのは、なぜなのだろう。

「サクラ」

今日できっと、三人の関係は変わる。変わらず三人でつるみはするだろうが、何かが変わる。俺の気持ちが、彼女に届くかは分からない。優しく、断られるかもしれない。それでも、手放したくない。

「サスケくん?」
「…話がある」
「サスケくんからなんて、珍しいね。どうしたの?」
「ずっと、言おうと思ってた」

一度しか言わない。
よく聞いとけ、サクラ。

「…好きだ」

馬鹿が彼女を好きなのも、彼女が馬鹿のことを好意的に思っていることも知ってる。だが、俺だって彼女が必要だ。
この気持ちに、もう嘘はつけない。
これだけは、譲りたくない。

「好きなんだ、お前が」

その瞳が見開かれた意味を、俺は知らない。彼女に正面から向き合ってほしくて、彼女の手首を掴んだ己の手が情けない。彼女の瞳が、次第に潤い、泳ぎだす。

「…お前は?」

少し遅れて己の胸に訪れた暖かみに俺はひどく安堵し、華奢な背中へと腕を回した。



ありがとう
(それから、ごめん)


20120817



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