あいつが里に帰ってきてから、大分経つ。あいつに向けられてた軽蔑の目が完全になくなったわけじゃねえけど、前に比べたらましになったと思う。命がけの任務も大分減ったし、影での仕事も減った。少しずつ、あいつが認められていく。少しずつ、変わっていってる。あいつが変われば、もちろん回りにも影響があるわけで。

「サークラちゃん」
「ナルト?」

偶然見かけた彼女に声をかけた。名前を呼べば振り返ってくれる彼女は、俺の初恋の人。短気で怒りっぽくて、んで怒らせちまうとすんげー怖い。でもそれは、俺たちのことを心配してくれてのことであって、怒ったあとすぐ泣く。涙脆くて、人一倍心配性な彼女。

「どうしたのよ」
「散歩してたらさ、サクラちゃん見かけたから!これってやっぱり運命?」
「あんたも暇よねー」
「せめて突っ込んでくれってば…」

アカデミーの頃から変わらないこの関係、距離。くだらない話して、笑って、たまに怒って怒られて。そこにはもちろんあいつもいて。ずっと三人は、なんだかんだ言いながら変わらないんだと思ってた。

「…サクラちゃんさ、最近綺麗になったよな」
「なに、おだてたって何も出ないわよ?」
「素直に喜べって!最近ってか、サスケが帰ってきたぐらいからかなー」

俺がそういうと彼女は仄かに頬を染めた。

「な、なに言ってるのよ!」
「いやマジだって!」
「そ、そうかなあ…」

彼女は髪を一房つまんで指先でくるくると弄りだした。その癖は最近よく見るもので、以前はそれほど見なかったように思う。
…本当に綺麗になった。見た目はもちろんだけど、芯から綺麗になったと思う。

「サクラちゃんこそ、どうしたの」
「え、ああ。これからサスケくんのとこに、定期検診に行くのよ」
「…そっか!」

最初はあいつが拒んでいた検診も、次第に拒まなくなって、壁を作っていた彼女も、次第に歩み寄るようになっていた。変わらないと思っていた関係も、どこかに波紋が起きれば少なからず影響は受けるわけで。

「引き留めて悪かったな!早く行かねえと、あいつ怒るんじゃねえの?」
「あ、ほんと!そろそろ行かないと!」

多分、今日で俺たち三人の関係は何かが変わる。最近のあいつはどこかそわそわしてるし、彼女だって然りだ。きっと、あいつは気持ちを打ち明けるんだろう。彼女だって、それを。

「ごめんナルト!またゆっくり話そう!」
「気にしなくていいってば!」
「それじゃ!」
「おう!バイバイ!」

また、なんてないよ。サクラちゃん。

「…潮時かなあ」

彼女に綺麗だと言ったのも、好きな気持ちにも嘘偽りはない。
それでも俺は。

「思ったより…辛いよなあ」

あいつが彼女を必要としていて。彼女はあいつが好きで。俺はあいつを好きな彼女が好きで。

「…さて!俺は一楽に行こっかなー!」

彼女の背が見えるうちは、気持ちを隠して、気丈に振る舞って。俺の笑顔が太陽のようで好きだと言ってくれた彼女のために、笑顔で見送るんだ。
明日には、また二人を笑顔で祝福してやっから。だから、それまでは。



祝言は涙のあとで
(カッコ悪いとこみせたくない)


20120816



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