「…ぷはっ!サスケくん、いいかげんに…!」
「まだ足りない」
「んむぅ…!」

小鳥がさえずる爽やかな朝のこと。サクラはいつもどおりサスケを起こしに寝室へと向かった。結婚して初めて知った、サスケの寝起きの悪さにサクラは手を焼いていた。カーテンをあけて朝日を浴びせてみたり、布団をはぎとってみたり、顔に水をかけてみたこともあった。
しかし、それぞれの手段を数回繰り返すと耐性がつくのか、効果がなくなってしまった。毎回業を煮やし、あの手この手で起こしてきたが、今日は何をしても起きない。サスケくん、と声をかけてみるも効果なし。間近で顔をのぞいてみても何もない。
相変わらず綺麗な顔立ちだ、と見つめているうち、その頬にキスをしたいという衝動にかられた。どうせこの男は何をしても起きないのだ、と衝動に従い可愛らしいリップ音とともに頬にキスをした。途端。

「!」

サスケの目は勢い良く開かれ、サクラと目が合う。

「お、おはよ、サスケくん」
「…はよ」

しばし見つめ合ったあと、サスケはがばりと起き上がる。サクラはようやく起きたと安堵し、その場を後にしようとした。
だがそれは叶わず、気づけばベッドの上にいた。状況に追いつけず、ぱちぱちと瞬きを繰り返してみる。その間にサスケはサクラを組み敷きにかかっていた。混乱したままのサクラに、サスケがキスをした。驚いたサクラが押しのけようと暴れるが、上手くいかない。サスケは寝起きとは思えない力で応戦してきたのである。キスを幾度も繰り返し、冒頭部に戻る。

「んっ、さ、サスケ、く!」
「…何だよ」
「はあ…っ、どした、の、急に!」
「急ではないだろ」
「は?」
「仕掛けてきたのはお前」

指をさされ、そしてサスケのニヤついた顔に血の気がひく。これから自分に降り懸かるであろう最悪のケースが容易に分かってしまった。

「それはサスケくんが起きてくれないから!」
「サクラも考えたな。あれなら毎日すぐ目が覚める。いや、冴え渡る」
「ならさっさとご飯食べてよ!」
「俺は妻を第一に考える主義でな」

相変わらずニタニタと笑うサスケの目は、いつの間にやら爛爛としている。まずい、まずいぞとサクラの脳内で警報が鳴り響く。

「やだやだやだやだ!」
「今日一日頑張るには充電が必要なんだよ」

サスケはキスを繰り返しながら、サクラの肌に手をすべらせる。

「ん…!」
(…そそる)

サクラの表情に、ゾクリと何かが走る。もっとその表情を見たい。と、服に手をかける。

「い、かげんに…!」
「?」

ぺちん、と可愛い音とともに、サスケの頬にサクラの手の平があたる。痛くも痒くもないビンタであったが、サスケは呆気にとられた。

「はあ、はあ…っ!」
「……。」
「サスケくんの、そういうとこ」
「?」
「嫌い…!」
「!」

サスケの動きが固まったわずかな隙間にサクラは逃げ出し、荒々しくドアを閉めて行った。サスケの脳内では、サクラの"嫌い"がエコーしていた。自身が嫌いと言われたのではなく、性癖を否定されたわけだが、サスケにとってそこが重要なのではなく、サクラの口から"嫌い"と発せられたことが重大なのだ。静かにサクラが出て行ったドアの方を見つめる。

「…やりすぎたか」

頭をがしがしと掻き、己の行動を反省する。欲に忠実になりすぎたせいか、急いてしまった。
簡単に身なりを整え、寝室をあとにした。サクラの姿を探すと、居間の隅で毛布に包まっていた。

「サクラ」
「……。」
「その、悪かった」
「……。」
「…反省してる」

格好悪くも、消え入りそうな声でしか言うことができなかった。それでもサクラは聞き取ってくれたようで、毛布からちらりと顔を覗かせた。

「…ほんとに?」
「ああ」
「…もうしない?」
「…気をつけはする」

サクラはしばらくの間、疑いの眼差しを向けていた。その間サスケは、ひたすら嫌な汗をかき続けていた。

「…なら、とりあえず許す」
「ありがたきお言葉で」
「ご飯食べよ」
「はいはい」

サクラはゆるゆると立ち上がるとサスケの手を引き食卓へと向かう。そして仲良く手を合わせ、遅い朝食を食べはじめた。



不可抗力だ!
(君があまりに魅力的だから)


20120514



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