「お前さ、サクラちゃんに好きって言ってるか?」 任務の最中、小休止をとっていた所にナルトからの唐突な発言をもろにくらい、口にしていた水を吹き出してしまった。 「何やってんだお前。汚ねぇな」 「ごほっ、…っおま、急に何言ってやがる!」 「や、だからさ。サクラちゃんに好きって言ってるか?」 「…んなのどうでもいいだろ」 乱暴に口元を拭い、竹筒に栓をする。それをそのままポーチに雑に仕舞うと立ち上がり、服についた汚れを軽くはらう。 「第一、今は任務中だ。休憩中とはいえ、私語は慎め」 「だってよ、この任務に出発する前にサクラちゃんがさ」 「…サクラがなんだ」 「あー、やっぱ言わねぇ」 「なんでだ」 「"今は任務中だ。休憩中とはいえ、私語は慎め"だろ?」 ナルトににやついた顔でそう言われ、俺はすぐに言い返すことが出来なかった。何か文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、シカマルが任務再開と指揮をとったため、結局何も言い返すことなく任務は進んでいった。 「で、サクラがなんだって?」 任務終了早々、俺はナルトに問い詰めた。ナルトは瞬時に理解出来なかったのか、何がといいたげに眉間に皺を寄せたが、合点がいったのかその皺はすぐになくなった。 「あー、あれ。気になっちゃう?」 「うぜぇ。さっさと答えろ」 「サスケ、お前のことだからどうせ何も分かってないだろ」 「だから、何が」 「女の子はな、記念日とか気にするんだってば」 「何の話だ」 「やっぱ気づいてなかったのか」 呆れ顔で返され、釣られて片眉が吊り上がる。 「俺達が任務に出たの、何日?」 「あ?28日だろうが」 「…お前はまだ答えにたどり着かないのか」 「煩わしい。単刀直入に言え」 「これ貸しだからな。…誕生日だってばよ、28日は」 「…は?」 「サクラちゃん言ってたぞ。"サスケくんのことだから、多分覚えてないよね。いいの、サスケくんが無事に帰ってきてくれればそれで"」 「口調真似てんなよきしょい」 この暴言が俺に出来る精一杯の反撃であり、小さな抵抗だった。実際のところ、俺の頭は理解に到達してはいなかった。誕生日がなんだ、普段と変わらないではないか。甘味などで祝い事をすることを想像してみると、吐き気がする。贈り物などする意味も分からない。偶然にもこの世に生を受けた日だというだけの話ではないか。 「今お前、誕生日が何だよって思ったろ」 「よく分かったな」 「だからサスケはいつまでたってもサクラちゃんを泣かせてばっかなんだってばよ」 俺を最高に馬鹿にした顔で、肩を軽く数回叩かれた。何様だ。くそ、覚えてやがれウスラトンカチが。 「多分さ、サクラちゃんは誕生日を祝ってほしいわけじゃねぇんだよ」 「意味がわからん」 「俺も知らねぇ」 「は?」 「今までの全部、いのからの伝言だからさ」 言われてみれば、鈍感なナルトがここまでサクラのことを観察できるとは思えない。山中ならば、その"観察"結果をナルトに託すことを考えそうだ。 「今、お前俺のこと鈍感なやつだと思ったろ」 撤回。意外と鋭いところもあるらしい。 「おかえりなさい」 「ただいま」 出迎えてくれたサクラに、ようやく体の緊張が解けた気がした。サクラと暮らすようになってからというもの、今まで自分は緊張を解くことが下手だったように思う。とは言っても、今でもサクラの顔を見なければ無事に木ノ葉に帰ってきたという心地がしないのだが。 夕食を済ませ、食器を洗い、所定の位置に戻す。サクラは雑誌を読みながら居間でくつろいでいた。その背中を見ながら、ナルトの言葉を思い出す。好きなどと、サクラに言ったことはあっただろうか。 「サクラ」 「んー?」 サクラを後ろから包むように抱き込む。サクラはいつものことだと思っているのか気にせず雑誌を読み続けている。柔らかい髪の感触や甘い香りを楽しみながら、俺は今までを軽く振り返る。 サクラに好きと言ったのはいつか、いや、言ったことがあるのか。思い返すのは、不安そうな顔や、泣き顔ばかりで。いつもサクラに甘えていたのだと気付かされる。 「サクラ」 「どしたの?」 そっと、小さな声ではあったが。サクラに届くよう囁いた。 「愛してる」 確かにサクラに届いたはずなのだが、反応がまるでない。恥を忍んでまで伝えたというにつまらない。いや、そもそもなぜ無反応なんだ?まさか、空耳だとでも思ってんじゃねぇんだろうな…。 「サクラ?」 様子を窺うと、サクラは耳まで真っ赤にしたまま固まっていた。俺の声も、目の前を行き来する俺の手も、何も見えていないらしい。普段言わない分、衝撃が大きかったか。しかし、反応がないのは至極つまらない。俺はサクラの髪をそっと耳にかけると、現れた耳を甘噛みした。 「ひゃあ!」 動き出したサクラは、手にしていた雑誌を落としてしまった。期待通りの反応を得られ、俺は満足した。サクラは口をぱくぱくとさせながら、何かを言いたそうにこちらを見ている。 「ササササ、サス、ケくん!」 「ん?」 「今、なんて…!」 「愛してるっつった」 「〜っ!」 その頭にやかんを置けば湯が沸かせるのではないかと思うほど、サクラの顔はさらに赤くなっていた。それがどうも面白くて、つい吹き出してしまう。 「サスケくん私をからかったの?」 ふて腐れたように唇を尖らせて抗議してくるものだから、違うとだけ伝えて抱きしめる。サクラは唇を尖らせたままではあったが、俺の腕に頭を乗せた。 「誕生日だったんだろ?」 「え?」 「3日前」 「…誰かの入れ知恵ね」 「素直に喜べ馬鹿」 サクラの頭を軽く小突く。 「生憎、プレゼントとかは用意してねぇからな」 「うん、いらない」 サクラが急にごそごそと動き出したかと思うと、俺と向き合うように座り直し、こちらを見上げた。 「サスケくんが側にいてくれたら、それでいいよ」 それだけ言うと、今度はサクラから抱き着いてきた。小さな子どものように頬を擦り寄せてくる。頭を軽く撫でてやる。 「…愛してる」 「うん、私も」 春色の、君 (誕生日だなんて口実で) 「じゃあ一緒に風呂でも入るか」 「それは嫌」 20120319 |