「おはよう!」
「…はよ」

あ、機嫌悪い。
今日は日曜日。そして、サスケくんの大嫌いな日。女の子が、好きな男の子に想いを伝える日。このイベントの発祥国では、愛を確かめ合うというのが本来の目的らしい。
そんな情報はどうでもいい。きっとサスケくんとしては、今日という日は家から一歩も外に出たくないのだろうけど、生憎今日は部活がある。サスケくん、そういうとこ真面目だから休みたくないんだろうなぁ。

「サクラ、あんまり離れんな」
「はいはい!今日の私はサスケくんのボディーガードだものねー」

サスケくん曰く、近くに私がいれば女の子は近づいてこないそうで。そりゃ、私は一応サスケくんの彼女だから、近づきにくいってのはあるんだろうけど。なんか気分悪い。

「私が守ってあげますよー」
「馬鹿にしてんのか」
「まさか!心配してるのっ」

これは本当。去年のバレンタインなんて、酷かった。というより、恐怖を感じた。去年もバレンタインは休日だったのだけれど、やっぱり部活があって。靴箱を開ければ雪崩のように落ちてくるチョコや、ランニングの後ろを追いかけてくる女の子達。そして極めつけは、一瞬の隙をついてサスケくんを取り囲むように女の子が群がった。私はどうしてあげることも出来なくて、なんだか悔しくて、自分のジャージの裾を掴むことしか出来なかった。

「今年は何事も無いといいねぇ」
「他人事みたいに言いやがって」
「他人事じゃないよ!…サスケくんが女の子に囲まれてるの見るの、辛いんだから」

わ、なんか涙出てきた。私ってこんなに涙腺緩かった?
サスケくんの方を見ると、頬が少し赤くなってた。照れてる?

「行くぞ!」
「わっ」

急にサスケくんに手を引かれ、転びそうになりながら私は後に続いた。

学校に着いてからはそれは恐ろしいもので。常に視線を感じるし、黄色い声がいつもの倍近く。私が離れる瞬間を今か今かと狙っているみたいだけど、サスケくんの方が離れないから無理なのよね。

「サスケくんは我が儘よ」
「は?」
「あんなにたくさんの女の子がサスケくんの事好きだって言ってくれてるのに、迷惑だなんて」

私だって、この間まではみんなと一緒だったんだから…。女の子達に嫉妬してまうのもあるけど、ちょっと同情もしちゃうのよね。

「…俺はお前がいればいいんだよ」

サスケくんはそう言うと、乱暴に私の頭を撫でた。こんな不意討ちずるい。ドキッてしちゃったじゃない。

「…練習戻るぞ」
「うんっ」

それから。練習中も黄色い声が止むことは無かったけれど、無事に練習を終えた。帰り道は、遠回りして、安全な道を選んだ。サスケくんは必死でこうしたんだろうけど、私は嬉しい。少しでも長く一緒にいられるから。

「無事に今日という日が終わりそうだねー」
「…あぁ」

あれ、サスケくん不機嫌?私何かまずいこと言ったかな?練習で疲れてる、だけ?

「どうしたの?」
「…ないのか」
「?何が?」
「っ!…チョコだよチョコ!」

サスケくんが顔を真っ赤にして言うものだから、私は目をぱちくりさせることしか出来なかった。サスケくんの口から、"チョコ"という単語が出るなんて。

「で、どうなんだ」
「え、あ、ごめん。ない」
「はぁ!?」
「だってサスケくん、甘いもの苦手だから…。その代わり、ちゃんと用意してあるんだー!だから、目瞑って」

サスケくんの眉間の皺は消えてなかったけど、とりあえず目を瞑ってくれた。
…ふぅー、いざするとなると緊張するな。私は決心すると、サスケくんのコートの胸部分を掴んで、サスケくんにキスした。

「や、安上がりでごめんね」

私からする、初めてのキス。…私、今思えば何て恥ずかしい事をしたんだろう。恥ずかし過ぎてサスケくんの顔見れない…!

「いや、その。…チョコより嬉しかった」

その言葉に驚いて顔を上げれば、サスケくんの眉間の皺はもう消えていて。でも、さっきよりも顔が真っ赤。なんだか可愛いなぁなんて思ってたら、サスケくんの口元がいやらしく笑う。

「ホワイトデー、楽しみにしとけよ」
「え?」
「とりあえず、今のお返し」
「え、あの、サス」

反論なんて許されず、唇は塞がれてしまった。冷静に考えればここは道端なわけで、すごく大胆なことをしているんだろうけど。今は、サスケくんにしては珍しい、甘いキスに酔いしれることにした。



(今だけは、溺れてもいいよね?)




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