サクラが任務で里にいないという。定期的な検診を受けに来た際に分かったことだったが、何か心が寂しく感じた。

「あらやだサスケ君。私じゃ不満なわけ〜?」

山中が茶化してきたのを無視することでかわし、診察室を後にした。病院内にあいつがいないのはひどく違和感で、さっさと病院を出て、帰路についた。
自宅の扉を開ける音が虚しくも響き渡り、自宅に帰ってきたことを後悔した。いつもなら、あいつが出迎えてくれているのだ。勝手にあがるな等と言っていたが、内心では真逆だったことは口が裂けても言えない。しばらく居間でぼうっと過ごしていると、扉をけたたましく叩く音が聞こえる。

「サスケー!宴会すっぞー!」

金髪の馬鹿を筆頭に、無断で次々に上がり込む野郎どもを呆然と見つめていた。最後に上がり込むシカマルが一言。

「邪魔するぜ。」

と言ったのが唯一の挨拶だった。
それからといったら、ひどいもので。それぞれが買い集めて来たであろう酒やら惣菜やらのゴミが散乱し、自分の口に入ったのは微々たる量であった。
キバやナルトが酔い潰れる前につまみだし、食い続けるチョウジには手土産を持たせて退席と二人を送ることを申し出た。
最後にシカマルやサイが家を出て行き、ようやく嵐は去った。

「誕生日ー!おめっとさんー!」

家の前で今だに騒ぐナルトの声で、やっと今日が自分の誕生日だったということに気づいた。俺へのプレゼントは大量のゴミか。覚えてやがれ。
ふと時計を見ると、山中から聞いた帰還時刻だった。

(サスケくん、誕生日に欲しいものあるー?)

「…欲しいもの、か。」

以前サクラと会った時の会話を思い出した。欲しいものなどないと返したが、思い返せばあることが分かった。思い立ったが吉日。身なりを整え、家を出た。


「お疲れ様でした。」

ちょうどその頃、サクラは報告書を提出し、自宅へと向かうところだった。任務で疲れた体で愛しい人の元へ行こうという気にもならず、自宅に帰ることのみ頭にあった。

(疲れた…。早く帰って汗流そう…。)

ふらふらと歩いていると、通りの先に人影が見えた。誰かと目を凝らすと、それは見知った人物で。

「サスケくん…?」
「よお。」
「どうしたの?」
「貰いに来た。」
「?何を…?」

問う途中で、それは抱きしめられることで途切れる。突然のことに思考が停止しかけたが、髪に顔を埋められる感触に、思考は活発に動きはじめる。

「サササ、サスケくん!」
「…何。」
「え、あの、なんでちょっと怒ってるの?いや、それより、なんで?」
「ちょっと黙れよ。」
「いやいや!黙れないって!私今汗くさいし!」

拘束感から解放されたが、代わりに待っていたのは漆黒の瞳との対峙であった。目を逸らすことも出来ず、ただ見つめ合う時間が過ぎていく。

「…サスケくん?」
「くれるんじゃなかったのか。」
「え?」
「俺の欲しいもの。」
「え、あ、そっか!誕生日!ごめんごめん!何が欲しい?忍具?巻物?」
「違う。」
「あ、書物とかの方がいいかな?サスケくん、勤勉だか…」
「違うと言っている。」

触れたのはきっと一瞬だったに違いなかった。ただ、間近にある端正な顔立ちや、触れる髪がくすぐったいことが、永遠に続くのではないかと錯覚してしまうほど、長く感じられた。

「分かったか。」
「…え、ええと。」
「貰いに来た。欲しいもの。」

もう一度抱きしめられ、ようやく理解する。しかしそれを口にするのは恥ずかしくて、おずおずと背中に手を回すことしか出来なかった。

「本当にいいの?」
「あぁ。」
「あとからやっぱり忍具がよかった、とか言われても、知らないからね?」
「分かってる。」
「それに…」
「分かったから、少し黙れ。」

よりきつく抱きしめられ、任務帰りで汗臭いことも、どうでも良くなった。

「ね、サスケくん。」
「ん?」
「お誕生日、おめでとう。」




(そう、君なんだ。)


20110811



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