力の限り、その華奢な首を絞めていた。苦しそうに漏れる声を、歪む顔を、ただただ眺めていた。

「…サ…ス…」

その瞳から、静かに涙がこぼれ落ちていったのを、やはり眺めているだけだった。





「――っ!」

目覚めると、異常なまでに汗をかいていた。前髪が額に張り付き、鼓動がいつも以上の速さで打っていた。

「…あれは…。」

夢が、やたら鮮明に残っていた。首を絞めていたその感触も、手の平にしっかりと残っていた。なぜ俺の名を呼ばれたのかも、なぜ首を絞めていたのかも、まったく分からない。

「サスケー!学校遅れるわよー!」

母親の声に、ゆるゆると身支度を始めた。
脳裏には、今だ春色の少女の顔と、名を呼ぼうとしていた己の姿があった。





「サスケー!はよーっ!」
「うっさい。」

朝から煩い友人と登校途中に出くわした。一方的に昨夜のドラマの話や、サッカーの結果などについて話してきたが、ふと、気になったことを問いかけた。

「知らない女の子の首絞めてた?」

見た夢の粗筋を話すと、珍しくも真面目な顔で聞き返してきた。

「それあれじゃねぇの?前世の記憶とか言うやつ。」
「んだよそれ。」
「この前テレビで見たんだけどよー。たまに前世の記憶を覚えてるやつとか、夢で見るやつとかいるんだってさ。」
「……。」
「っておい!やべぇ!遅刻だってばよ!」

突如走り出した友人の後ろに続き走りながら、話について考えていた。あれが前世の記憶だとするのなら、俺の前世は戦乱の世だったということになる。なぜ、そんな時代に戦場で女の首を絞めているのか、まったく分からなかった。

「は〜い。今日は転校生がいま〜す。みんな仲良くしてあげてネ。」

間延びした声で担任が告げる。促され教室へと入ってきた転校生は、紛れもなく。

「うっわー!可愛いー!」
「ナルト、静かにしなさい。」

注意されたのにも関わらず、ナルトは騒ぎ続けた。担任は小さくため息を着くと、黒板に転校生の名前を書きはじめた。

「じゃ、自己紹介お願いできるかな?」
「あ、はい。」

転校生は改めて俺達に向き直ると、はっきりとした口調で自己紹介を始めた。

「春野サクラです。父の仕事上の都合で、引っ越してきました。よろしくお願いします。」
「俺はねー!うずまきナルト!よろしくな、サクラちゃん!」
「静かにしなさいって言ったでしょーに。ま、いいや。サクラの席は、サスケの隣ね。空いてる席。」

隣に座った転校生は、俺の方を見て、にこりと笑った。

「よろしくね。」
「…おう。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…なんだよ。」
「私達、どこかで会ったことある?」

その質問に、答えられなかった。夢の中で、なんて言ったらまず頭がいかれているのかと疑われるだろうし、前世などという答えは以っての外である。答えられず沈黙が流れると、転校生が慌てて言った。

「そんなわけないよね!ごめんね、初対面なのに失礼なこと言って。」
「べ、…別に。」
「改めて、よろしくね。」

夢の中で、転校生と瓜二つの女の首を絞めていた手で、俺は、差し出された手を握った。



20110626




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