あの日から一ヶ月。俺はいつもの待ち合わせ場所でサクラを待っていた。今日は、俺の身に関しては問題ない。気を付けるべきは、サクラの身。

「サスケくん!おはよっ!」
「はよ」

そう、今日はホワイトデー。一般的には、男が女にバレンタインの礼をする日だが、俺の学校の野郎共はサクラにチョコを渡しに来やがる。それに、告白も添えて。
今までホワイトデーなど意識してこなかったが、去年、思い知った。俺が少し目を離した隙にサクラは消え、探し出すとそこには告白現場。休みに関わらず、下駄箱から雪崩のように出てくるチョコレート。悪夢だった、あれは。
しかし、一番問題なのはサクラである。ここまでされても分からないらしく、みんな優しいね、なんて言いやがった。

「サクラ、俺から離れんなよ」
「えー、また私ボディーガード?」
「違ぇよ」

学校に行くまでの道中、普段なら絶対にしないが、サクラの手を取った。サクラはその行動に驚いたのかこちらを見たが、気にすることなく指を絡めた。

「珍しいね!」
「…今日だけだ」
「えー、ケチー」

学校に到着し、部室へ向かう。互いに練習着に着替え、コートに立つ。体育館の二階には、いつもの倍の男子の数。その視線の先にはジャージ姿のサクラ。動き易さを優先させるサクラは二つ結び。いつもと違うサクラの姿に目がいってしまうのは分かる。しかし、野郎共の目に晒されるのは我慢ならん。

「サスケくん、頑張ってー!」

それでも応援してくれるサクラの為、俺はシュートを放った。

その日の帰りは、一ヶ月前通った道を通った。もちろん、手を繋ぎながら。

「なんか今日のサスケくん、らしくないねー」
「そうか?」
「いつもだったら絶対手繋がないし、遠回りしないし」

どうやら今日という日がどんな日か知らないらしく、暢気ににこにこ笑っている。とりあえず俺の家に招いた。家には誰もおらず、ホワイトボードには家族の予定。両親は出張に旅行、兄は泊まりに行くと記されていた。

「サクラ」
「なぁに?」
「これ」

俺は用意していた包みをサクラに手渡した。そこでサクラはようやく理解したらしく、嬉しそうに包みを解いた。

「わぁ!チョコ!」
「今日はホワイトデーだからな」
「ありがとう!そっかぁ、ホワイトデーか。忘れてたー」

サクラはそう言いながら、包みの包装を元通りにしていた。

「食べないのか?」
「なんか食べるのもったいなくて」
「せっかくやったのに」
「だって」
「…俺が食べさせてやるよ」

包みを奪い取ると、その中のチョコレートの一欠片を口にくわえた。驚いているサクラの肩を掴み、口付けた。否、食べさせた。俺の口の中にも甘い味が広がったが、気にしないことにした。

「サ、サスケくん!」
「どうだ?」
「美味しい、けど!…あ」
「何だ」
「ホワイトデー楽しみにしとけって、こういう意味?」

サクラが顔を真っ赤にさせながら言うものだから、つい悪戯心に火がつく。もう一度チョコをくわえてサクラに口付けた。

「…これで終わりだと思うなよ?」
「え」

雪崩れ込むようにサクラをソファーに押し倒し、サクラを見下ろした。サクラの顔はますます赤くなり、瞳が忙しなく動いていた。その様子があまりにも可愛らしくて、額にキスをした。そして、わざとネクタイを緩め、第一ボタンを外した。

「えぇ!ちょ、サスケくん!」
「何だ?」
「その、何してるの!」
「何って、ネクタイ緩めただけだ。…何想像したんだ?」
「そ、想像なんて…!」

サクラの瞳が潤んできたところでサクラに口付けてから体を離した。

「冗談だ」
「サスケくんが言うと冗談に聞こえないよ!」
「悪かったって」

顔を真っ赤にして怒られても迫力はなかったが、これ以上からかうと機嫌が戻らなくなるので声には出さなかった。

「もう…」
「サクラ、今日泊まってくだろ?」
「へ?」
「教科書とかなら明日取りに寄ればいいし、今日の着替えなら俺の着ればいいだろ」
「いや、でもさぁ」
「お前の母さんには、俺の母さんから連絡いってると思う」
「えええ!」

大袈裟なほど驚く彼女の頬に、俺はそっと口付けた。




(君が可愛すぎるから)


20100314




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