「おい、優等生」 「その呼び方やめてくれないかな、うちはくん」 こいつと付き合い始めてから、約四ヶ月。以前より格段に会話は増え、行動を共にすることもしばしば。教師からは、サクラに哀れみの目が向けられることもあったが、今ではそれも昔の話。 「お前だって俺のこと、名前で呼ばねぇだろうが」 「うちはくんが、私のこと優等生って言わなくなったら呼んであげる」 「サクラ」 呼べと言われたから呼んだ。するとどうだ、こいつは顔を真っ赤にして目を見開いてやがる。 「お前が呼べっつったんだろうが」 「ほ、本当に言うと思わなかったの!」 「俺は呼んだ。お前も名前で呼べよ」 「私は言わなくなったら、って言ったの。一回呼ばれたくらいじゃ、呼ばない」 可愛くねぇ。なんだこいつ。 理屈っぽいし、素直じゃない。ちょっと頭がいいからってなんだ。 こんな奴に惚れる奴いんのか、俺以外。 「ねぇうちはくん」 「サスケだ、優等生」 「なんで私と付き合ってるの?」 思わぬ質問だった。優等生は課題のプリントを解きながら問うてきた。 今まで聞いてこなかったのに急にどうしたのだろう。考えていると、優等生がこちらをちらりと見た。 「うちはくんは、もっと派手な女性と付き合った方がいいんじゃない?」 「なんだそれ」 「私のイメージ。うちはくんなら誰とでも付き合えるでしょう?」 「あのな」 「あ、もしかしてあれ?何人もの女性と付き合いすぎて疲れて、私は箸休め的な」 そこまで言うと、優等生はにこりと笑った。笑ったが、その笑顔は笑顔ではなく。無理をして笑っているような。 「何で急にそんなこと聞く」 「私とあなたが付き合ってることが、今でもよく分かってないから」 「…なんだそれ、俺ばっか好きみたいじゃねぇか」 俺の想いは何一つ伝わってなかったのか。一人で浮かれて喜んで、とんだピエロじゃないか。虚しくなって、どこにもぶつけようがなくて、乱暴に頭を掻いた。 「お前は俺が好きか」 「よくわかんない」 「俺はお前が好きだ」 真剣に、真っ直ぐに。今度はしっかり届くように。 「お前は?」 「こんなの、卑怯よ」 「あ?」 「好きじゃなくても、その気になっちゃうじゃない、馬鹿!」 顔を真っ赤にさせたと思うと、近づく唇。触れ合ったと思ったときには、すでに離れていて。目の前には俯いたまま、俺のシャツを掴む優等生。 「た、誕生日だって、聞いたから…」 今度はキッと睨まれ。 「誕生日プレゼント!馬鹿!」 そう吐き捨てると、優等生は教室から走り去っていた。教室に残されたのは俺と、あいつの持ち物。 「馬鹿馬鹿言うなよ、馬鹿」 唇が妙に熱い。あいつとキスなど、初めてではないのに。というより、あいつとしか付き合ったことがないのだが。 「…箸休めじゃねぇよ、馬鹿サクラ」 俺はあいつの荷物を掴むと、後を追った。 不器用なんだ (好きすぎて、回りが見えない) |