想いを伝えたら、すべてが壊れてしまいそうで。
私はただ、遠くからあなたを眺めているだけで幸せなの。


「サクラ」

あなたが、私をそう呼んでくれる声が好き。私のなんてことのない名前が、とても素晴らしいものに思える。呼ばれるだけで私の心臓は、とくんと音をたてる。私は出来るだけ最高の笑顔を、彼に向けるのだ。

「こっちにパス回せ!」

あなたが、精一杯に何かに取り組んでいる姿が好き。その真剣な眼差しの先に、何が見えているんだろう。私も同じものが見たくなる。

きっと、彼には好きな人がいる。たくさんの女の子が彼を好いている中で、彼が好きになった人はとても幸せだと思う。
誰のことを好きなのかは知らないけれど、最近女子の話題はそれで持ち切りだから確実だろう。誰が好きなんだろう、聞きたいけど、聞けないや。

「サクラ」

あなたが私の名前を呼んでくれた。私は、ゆっくりと振り返る。

「なあに、サスケくん」
「いや、その、何だ」

珍しく、サスケくんが口ごもっている。いつもなら、言いたいことをさらっと告げるだけなのに。

「どうしたの?サスケくんらしくないよ?」

笑いかけると、サスケくんの頬が仄かに赤くなる。どうしたのかと思っていると、真剣な眼差しが向けられる。いつも、私に向けられることのない、眼差し。私の単純な心臓は、とくんと跳ねた。

「…分かってんだろ」
「え?」
「え、って…分かってなかったのか…」

がしがしと頭を掻く。そんなしぐさも格好よくて、見惚れる。ぽおっと見ていると、サスケくんとがっちり目が合う。

「俺は、お前のことなんて呼んでる」
「えと、サクラ?」
「他に下の名前で呼んでるやつは」
「ナルト、シカマル、キバ…」
「男子はいれるな!」

意外に大きな声で言われたので、思わず私の肩が跳ねる。それにはサスケくんも少し驚いたのかバツが悪そうにすまん、と小さな声で言ってくれた。

「俺が女子で下の名前で呼んでるのは、サクラ。お前だけだ」
「うん?」
「……」
「…?」
「あーもうだから!」

いつまでもサスケくんの言っている意味が分からない私に、痺れを切らしたかのように小さくため息をつく。わ、怒られちゃう。そう思っていると、サスケくんに手を握られる。
私の体温は、一気に上昇。気づかれて、ないよね?

「好きなんだ」
「何が?」
「お前が。…サクラが、好きなんだ」

ぎゅっ、と手を握られる力が増したのが分かった。これは、夢?現実?
訳が分からなくなって、呆然としていると、手から温もりがなくなる。

「え、」
「…やっぱり、ダメだよな」
「サスケく」
「変なこと言って、悪かった」

サスケくんはそう言うと、ゆっくり背中を向けて歩き出す。
駄目、行かないで。
そう思うよりも先に、私は駆け出していた。

「サスケくん待って!」
「!」

私の声で止まってくれるかなんて分からなかった。私は無我夢中でサスケくんに抱き着いていた。

「サ、サクラ!」
「私、まだ、返事してない!」
「分かったから、と、とりあえず離れろ!」

私はサスケくんからゆっくり離れる。それでも、シャツを掴む手は離せなかった。

「サスケくん、私…」
「……」
「私、サスケくんのことが好き、ずっと前から、好きなの」

私に言える、精一杯だった。サスケくんがどんな顔をしているか気になったけど、私の真っ赤になった顔を見られたくなかった。

「サクラ」
「な、に…?」
「顔、あげてくれ」

怖ず怖ずと顔をあげると、私と同じか、それ以上真っ赤な顔のサスケくんがいた。

「嘘じゃ、ないよな」
「こんな状況で、嘘なんかつけないよ…」
「だ、だよな。…良かった」

サスケくんの安堵する声が聞こえたかと思うと、抱きしめられていた。

「サ、サスケく」
「好きだ、サクラ」

少し、私を抱きしめてくれている腕に、力が増した。

「…私も、好き。サスケくんのことが、大好き」

私も、彼の背中に腕を回した。



(これからもきっと、あなたの虜)


20100529


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