「昨日越してきました、春野サクラです。学校のこととか、街のこととか、まだよく分かんないんですけど、教えてくれたら嬉しいです。よろしくお願いします」 ぺこりとお辞儀をした彼女は、頭をあげるとにこりと笑う。するとクラスの雰囲気が変わる。男子の頬は赤に染まり、女子は話しかけてみようなどと話している。 起きているのかいないのか分からない担任に指示され、席につく。その席は、俺の隣。様々な感情が込められた視線が向けられるが、俺には関係ない。 ホームルームは終わったようで、クラスがざわつき始める。 「サスケくん?」 馴れ馴れしく名前を呼んできやがったから、軽く睨み付ける。 「サスケくん、だよね?」 「…だったら、何?」 「久しぶり!」 …は?久しぶりだと?俺がいつ、どこで、お前に会ったんだよ。 頭の中でそんな疑問が駆け巡っていると、こいつはやっぱり覚えてないか、などと言いながらくすくす笑っている。 「幼稚園の時以来!」 「…泣き虫サクラか」 「うわっ、なんでそういうことは覚えてるの?」 "幼稚園"という単語に、俺の検索エンジンは見事にヒットした。同じ幼稚園に通い、同じ組だった、春野サクラ。現在ほどはつらつとした性格ではなく、消極的でいじめられっ子。それ故についたあだ名は"泣き虫サクラ"や"でこりん"など数知れず。 小学校に上がる前に俺がここに越した為、こいつの言う通り幼稚園以来の再会となる。 「私もお父さんの仕事の都合でこっちに来たの。でも、まさかサスケくんに会えるなんて思ってなかった!」 「俺も」 久しぶりに会い、昔話に華を咲かせようとすると、クラスのやつらが一気にサクラに話しかけにきていた。サクラはやつらの対応に追われているようだったので、俺はクラスから出た。 授業も進み、サクラとは会話をすることなく放課後に。今日はバイトもなく、時間に余裕があるので焦ることなく教科書を鞄の中へ。 「サスケくん!」 ドアが開く音がしたかと思うと、ドアを開けたのはサクラだった。その手には、校内地図やら教科書やら、たくさん抱えている。それを机の上に置くと、椅子に腰かけた。 「あっちで使ってた教科書と違うから、今もらってきたけど重いや」 「何冊か置いて帰れば?」 「それは嫌!サスケくん持って帰るの手伝ってよ」 「何で」 「私の家、サスケくん家の隣」 「え…てことは」 「うん、同じマンション」 そういえば、昨日隣が騒がしかったような。騒がしいとは思ったが、バイトが入っていたから特に気にしてはいなかった。 「だから、一緒に帰ろう!話したいことたくさんあるの!」 その笑顔に、なぜか胸が苦しくなる。何だこの苦しさはと思うと同時に、その正体を知る。あぁ、そうか。俺は―。 「サスケくん?」 「いや、俺も話したいことがある」 サクラの教科書を半分持ち、教室を出た。 好きだ。 (君に伝えたいただ一つのこと) |