「うちは先生ー!」
「あのぉ、先生ぇ。ここが、分からないんですぅ」

何なんだ、こいつら。



●君でなければ●



とある女子高。
放課後に、運動部の掛け声や、吹奏楽の音色に混じり、黄色い声が飛び交っていた。

「うちは先生ー?どこに行かれたのー?」

(なんとか撒いたか…)

ほっと安堵のため息をもらす。
なんでか知らないが、ここの学校の生徒は、休憩時間、授業中、その他隙あらば追いかけてきて気持ち悪い声で話しかけてくる。
全くいい迷惑だ。
しかし、この間、追いかけても、話しかけてもこない生徒を見つけた。

「サクラ、ここにいたのか」
「…うちは先生?」

彼女―春野サクラは、他の生徒と違っていた。
差別的な意味ではなく…自分でもうまく表現することは出来なかった。

「うちは先生…下の名前で呼ぶの、やめてくださいませんか?クラスの子達に睨まれるんです」
「いいじゃねぇか。俺はサクラ以外に興味ねぇよ」
「それ、世間一般では、"ロリコン"っていうんですよ」
「お前はもうそんなに幼くないだろ」

生徒がうろつかない場所…それは図書室だった。
今時の女子高生が、本を読むためだけに時間を費やすものは、皆無に等しかった。
しかし。
どうやら今日は違ったようで。

「うちは先生ー?」

声と足音が、こちらに向かってきた。

「やっべ…。サクラ、隠れるぞ」
「は?!」


ガラッ

「先生ー?」

ドアが開くと同時に、可愛く仕上げた声が響く。

「いないのー?」

こちらに、足音が近づいてくる。

「こっちにはいないみたいよー」

暫くすると、諦めの声と、遠ざかる足音が聞こえた。

「よかった…」

狭いロッカーに、押し込められていた二人は、足音が完全に聞こえなくなると勢いよくロッカーから飛び出した。

「ていうか、何で私まで隠れてるんですか!?しかもロッカーに…!」
「いい隠れ場所だと思ったんだがな」
「先生一人で隠れればよかったじゃないですか!」
「気にするな」

サクラと一緒がよかったんだよ―
そんなこと、口がさけても言えるもんか。





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