空はどうやらご立腹のようだ。
怒りの光を人の街へと落とした。



●雨上がり●


「きゃっ」

雷がなるたび、彼女は彼の腕の中で身を強張らせる。

「だから早く帰れって言ったろ」

語尾に呆れ気味の疑問符を付け加えておく。

「だってぇ…」

ぐす、と彼女は鼻をすする。

「だってなんだ。サクラ」
「…サスケくんと、離れたくなかったんだもん」

理由を問いただしてみれば、なんと可愛らしい理由だろう。
許すしかなくなるではないか。

「…ずっと離れてるわけじゃないだろ。明日だって会える」
「今日はなんか…離れたくないの…」


すると、再び雷が鳴り響き、照明がおちた。


「停電か…ブレーカー見てくる…サクラ?」
「ひ、一人にしないで…」

立ち上がり、自分の前を通りすぎようとした彼の服の裾を掴む。
当然、彼は心配して振りかえる。

「暗いままじゃ不便だろ。」
「一人よりはいい」

とうとう泣き出してしまうのではないか。
本当に焦った。

「……」
「…サスケくん…?ごめ」

彼女の言葉はそこでしばらく途切れる。
彼の唇によって。

「…すぐ戻るから」
「うん…早くね?」

嗚呼、上目遣いはやめてくれ。

「分かってる…」

今度は、彼女の額に唇を落とす。

「ありがとう」

暗闇ではっきりとは見えなかったが、彼女が笑ったような気がした。


少しして、部屋に灯りが戻る。
少しして、彼女のとなりに彼が戻る。

「早かったろ?」
「少し遅い」

頬を膨らませる姿はいとおしかった。

「悪かった」

苦笑しながら、頭を撫でてくれる。

「…別に怒ってないけど」

ふてくされた顔で言うつもりが、自然と顔は緩んでいた。

「お、雨上がったか?」
「本当だ…。いつの間に上がったんだろ」

いつの間にやら、空も、そして彼女も泣き止んでいた。


「…我が儘言ってごめんね?」
「いつものことだろ」


雨上がり。
空には虹が架かっていた。




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