随分暖かくなってきた。まだまだ夜は冷えるけど、春って感じ。
家にいても勉強に集中出来ないから、学校の図書室に足を運んでいた。

(ちょっと休憩しようかな)

軽く背伸びをして、机の上に広げた教科書を片付けた。窓の外を見れば、桜が気持ち良さそうに陽の光りを浴びていた。それを眺めながら廊下に出て、自販機がある場所へ向かう。

(財布、財布…)

教科書やら参考書やら、たくさん物が入っている鞄の中から財布を探す。ごそごそと漁ってみるけど、それはなかなか見つからない。確かに鞄に入れたはず。入れていないなら、まず自分はここにいないのだ。

「おかしいなぁ、確かに鞄に…」
「お前の探してるの、これか?」

声がした方を見ると、そこには制服を着崩した男子生徒。学校でも有名な不良、うちはサスケくん。先生からお前は関わるなと注意されている人物であり、私もあまり関わりたくない人物。その手には、私の財布。

「なんでうちはくんが、私の財布持ってるの?」
「さっきジュース買うのに金なかったから、借りた。あ、借りた分はもう入れといた」
「それ、一歩間違えたら犯罪だよ?」
「今さらだろ。俺が何回補導されたと思ってんだ、優等生」

ポイ、と投げられた財布を受け取り、中を確認した。確かに、お金は戻されているようだった。

「今日のは先生に言わないであげるから、もうこんなことしちゃ駄目だよ。それじゃ」

もう休憩をとる気にもなれなくて、私は教室へと帰ることにした。関わっても良いことは何もないんだから。

「春野、」

いつの間にか側にいたのか、腕を掴まれて強引に振り向く形になる。そこには相変わらず無表情なうちはくんがいて、何がしたいのか分からなかった。

「…何?」
「お前、今日誕生日なんだろ?」

うちはくんの口から飛び出したのは、それは意外過ぎる言葉で。何で知ってるの、何で呼び止める必要があったの。聞きたいことは山ほどあったけれど、一つとして音にならなくて。

「違うのか」
「え、あ、いや、そうだけど…」
「ナルトから聞いた」
「あ、そうなの」
「祝ってやる」

そううちはくんが言った直後、唇に何かが触れる。それがキスだと、理解するのにどれくらいかかったのかは分からない。

「金欠だから、これで許せ」
「うちはくん!祝うって、もっとちゃんと考えようよ。こんな、こんな…!」
「優等生はこれだから嫌なんだよ」
「だったら関わらなければいいじゃない!」
「…お前、こっちの方には疎いんだな」
「はぁ!?」
「俺と付き合え、男と女として」

また、思いもよらぬ言葉に言葉が詰まる。決して交わることのないと思っていた私達の関係。不良と優等生。

「ちなみに、お前に拒否権は無いからな」

少し、動いた?




(この先には何が待っているのだろう)


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