世間はクリスマス一色。
街は華やかな飾りや恋人達に溢れ、はしゃぐ子供たちもいるのだろう。
しかし、彼─サスケにとってはまったく関係のない話だった。

「残業なんて嘘だろ…」

もともとこういうイベントは好きではないが、彼女が家で待っているのだ。
だからといって帰れるわけがない。
彼女が家で待っている、そういった理由で帰れたら、今ごろ倒産してる。

「はぁ…」

誰がこの忙しい時期にクリスマスなんか…と文句を言いつつ、おとなしくパソコンと向き合い、仕事に戻る。

「お先に失礼します」

担当の仕事を終えた者が次々と帰っていく。

(ちっ…)

なぜ自分だけこんなに量が多いのか。
どこにもぶつけようのない苛立ちを心の中で舌打ちをすることで解消した。

(そういえば…去年は…)

文字を打ち込みながら、去年のことを思い出していた。

────────…

「これでよし!」
「なかなか様になったな」
「きれー…」

朝から二人でツリーを飾り、サクラがご馳走を用意してくれた。

「おっじゃまー!」
「ナルト、ヒナタ。いらっしゃい!」
「ごめんねサクラちゃん。あ、私、ケーキ持ってきたの」
「おいドベ、ちったぁ行儀よくしとけよ」
「なんだとー!」


───────…


そのあとぞろぞろと人数は増え、パーティーをしたんだった。
久々に会ったこともあり、朝まで語り合ったことを覚えていた。
しかし今年は俺も会社員。
生活していくためには、働かなければならない。

(…電話だけでもいれとくか)

携帯を片手に廊下へと出て、見慣れた番号を押した。

「─もしもし、サクラ?」
『サスケくん?どうしたの?』
「悪ぃ、仕事が長引いて帰れそうにない」
『え…』
「すまん」
『…今日はクリスマス・イヴなんだよ?』
「うん」

彼女の声が、若干震えていた。

『年に一回しかない、特別な日なんだよ?』
「…うん」
『すぐに帰ってきて!』

彼女の言葉を境に、暫しの沈黙が流れる。

『…ごめん、仕事だもん、しょうがないよね』
「…サクラ」
『大丈夫!私なら大丈夫だから。お仕事、頑張ってね』

そこで通話は途切れた。
彼女が無理をしているのは容易に分かった。

「ちっ…なんでイヴに厳しいんだ、女は」

まるで俺が悪いことをしたみたいじゃないか。
時計を見ると、ちょうど終電が発車した時刻だった。

(なんで今日は祝日じゃねぇんだ)

ぶつぶつと悪態をつきながら、仕事を仕上げにかかった。


仕事が終わり、タクシーに飛び乗った。
早く着きはしないかと、外を見ながらボーッとしていた。

『…それでは次のお葉書です。』

ラジオから聞こえてくるDJの声。
聞いた覚えのあるBGM。

『…にお住まいのラジオネーム、チョコさん。今日はクリスマス・イヴ。プレゼントよりも何よりも、彼に側にいてほしいです。…なーんて、その前に彼氏を見つけなきゃですよね!』

(側にいてほしい…か)

去年は二人、朝からツリーを飾り付け、友達を呼んで、朝までパーティーをしていたのが嘘みたいだ。
今年は一人、もうすぐイヴが終わろうとしている。
プレゼントはないし、明日も早いし、雪も降っていない。
でも、

「ただいま」

寂しがっているはずの君に、特別な、口づけをしよう。








おまけ

「おかえりなさい、サスケくん!」
「お前、起きてたのか?」
「だめ、だった…?」
「いや…好都合だ」
「へ?」
「メリークリスマス、サクラ…」

特別な、口づけをしよう。




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