またこの日が来たと思った。 人が言うにはこの日は俺が生まれた日らしい。 毎年この日が来ると、決まってイルカ先生が一楽に行こうと誘ってくれて、おっちゃんやねえちゃんも一緒になって祝ってくれた。 アカデミーを出てからは、修行や任務に明け暮れ、この日のことなんて、すっかり忘れていた。気にかける暇もなく、毎日は凄まじい勢いで通りすぎていった。 もちろん、俺の初恋の人の誕生日は盛大に祝った、自分なりに。「おめでとう」と言うと、本当に嬉しそうに、「ありがとう」と言ってくれた彼女は、とても綺麗だった。 あいつの誕生日も祝ったっけ。 と言っても、彼女がそう言っていたから初めて誕生日だったのだと知り、「おめでとう」と言っただけ。 彼女もそれに続くようにそう言うと、あいつは頬を染めて、小さく(そう、それは消えそうなほど小さな声で)「ありがとう」と言っていた。 そして肝心の俺はと言うと、誰にも誕生日を教えていない。いかにも祝ってくれと言っている気がしたから。 それでも、少し期待してみたんだ。 「七班でまた任務するなんて、ほんと久しぶりね!」 「会うのも久しぶりだな。」 「なんか懐かしいってばよ!」 任務も終わって帰り道。 淡い期待は見事に砕け散り、任務報告をして解散。 まぁ当然かと思い、他愛のない話に集中する。 「あのさ、」 「何よ。」 「今日何の日か知ってる?」 彼女とあいつは顔を見合わせると、アイコンタクトを取っているようだった。 「知らない。何の日?」 「あ、いや、知らないんだったらいい。」 上手く誤魔化して、笑うことは出来ていただろうか、我ながら馬鹿な真似をした。 「あ、そう? あ!今からみんなでご飯食べに行きましょうよ!久しぶりに会ったんだし!」 そんな彼女の提案で居酒屋に。珍しく、あいつもいる。彼女を俺とあいつで挟んで座った。 「おっちゃーん!生3つ!」 注文した酒はすぐに来て、とりあえず乾杯をすることにした。 「何に乾杯する?」 「はいはい!私に任せて!」 彼女はそう言うと、俺の大好きなあの笑顔で、ジョッキ同士をぶつけて言った。 「お誕生日おめでとう!ナルト!」 呆気にとられる俺に対し、彼女はあいつにも何か言うように催促していた。 距離が遠いから、ジョッキをぶつけるのに苦労していた。 「…おめでと。」 「サスケくん!今度は私と乾杯!」 ご機嫌で乾杯をする彼女を見て、ようやく我に返る。 「え、サクラちゃん!」 「なに?」 「なんで俺の誕生日…」 「ん?知ってたよ。」 まぁ飲みなさいよと言われて、一口。彼女も、あいつも一口。 「イルカ先生に聞いて、知ってたんだけどね。 任務とか、修行とか、お互いにすれ違ってたでしょ?手紙だけでもと毎年思ってたけど、そんな暇もなくて。 …ごめんね。」 そう謝る彼女が、本当に毎年、祝えなかったことを悔いているようで、なんだか嬉しかった。 「ウスラトンカチのことだ、今まで自分の誕生日も忘れてたんじゃねぇの?」 「なんだとー!」 「こらこら!お店で暴れないの!」 あいつが悪態ついて、俺が突っかかって、彼女が止めて。久しぶりのこの感覚に、胸がじんわり熱くなる。 彼女は今度はぐいっと勢いよく酒を飲んで、言った。 「今年は、やっと祝えた。 今まで祝えなかった分を、今日いーっぱい祝ってあげるんだから!」 なんて、悪戯っぽく笑う彼女は、すでに酒が回り始めたようで、頬が赤い。 「今日ぐらいはお前らに付き合ってやる。」 そう言うあいつは、表情に棘がなくて。 「おめでとう!ナルト!」 今日という日に乾杯! (俺は今世界で一番幸せなのかもしれない!) |