私なりに修行して、私なりに勉強した。机の上に広がるノートには隙間がないというほど文字が並べられているし、分厚い本が積み重なって置いてある。ペンを握る腕には小さな切り傷がいくつもあるし、痣だって数え切れないほどある。
それでも、追い付けないこの距離は何なのだろう。

「先生!もう一回だってばよ!」

班を結成したばかりの頃は、駄目な奴だと見下していた。スタミナだけが取り柄で、勉強や忍術は私以下。そして煩い。それだけだった。
でも、今となっては私なんかより、遥か遠くに行ってしまった。勉強は相変わらずだけど、そんなことがどうでもよくなるくらい、強くなった。頼れるけど、頼れなかった。

「ちぃ…!まだだ!」

アカデミーの頃から、ずっとずっとあなたのことが好きだった。頭が良くて強くて賢くて。ちょっと無愛想だけど、そこが魅力。任務で私が危険に晒された時は、何だかんだ言いながら助けてくれる。
…そう、助けられてばかりで。あなたに認められたくて、修行してみるけれど、いつになったら追い付けるのかな?

「サクラー?どしたの?」

カカシ先生が心配して声を掛けてくれた。頼りになる、私たちの担当上忍。先生にだって、助けられてばかり。上忍と下忍なのだから実力が開いてしまうのは仕様がないと言い聞かせても、ナルトとサスケくんはカカシ先生に追い付けている気がする。私だけ、置いてきぼり。

「んー、何があったかは知らんが、あんまり気負いなさんな。お前はお前でいいんだから」

頭を撫でてくれる手に、目頭が熱くなる。すると、ナルトとサスケくんがこちらに駆けてきた。修行が終わったのかな、と思っていると、ナルトが先生を指差して突然叫んだ。

「先生ぇ!そういうの、セクハラって言うんだってば!てか俺のサクラちゃんに触んな!」
「自意識過剰も大概にしろ、ドベ。サクラがお前の物になるわけないだろ」
「もー、外野がやいやい言わないのー。状況がややこしくなるでしょ」

ごめんね、気にしないで。
私はそう言って微笑むと、自分に与えられた修行をこなした。私のせいでみんなに迷惑は掛けられない。もっと強くなるの。

「じゃあ今日はここまでー。解散!」

今日の演習はこれで終わり。いつもはサスケくんに声を掛けるけど、やめた。ナルトに一楽に行こうと誘われたけど、断った。みんなが帰ったあと、大木の根本に座った。私もこの木ぐらい、堂々と構えられたらいいのに。
私の中の何かが崩れて、私は幼かった頃のように泣いた。涙は止まることを知らず、呼吸が乱れた。
泣くことで気付けなかったのか、隣に気配。そして、肩と肩がぶつかる。

「サスケ、くん…」
「今日のお前、変だったからな。一人で抱え込むな。…見ないから、今のうち泣いとけ」

どうしてそんなに優しいの?私なんかに気を使ってくれるの?
また涙が溢れそうになると、今度は反対側の肩がぶつかる。

「俺も見てねぇってば!」
「ナルト…」
「サクラちゃんはいっつも頑張ってるから、たまには力抜かねぇとな!」

顔を背けてくれているから、表情は分からなかったけど、きっと笑顔。頑張ってなんかない。みんなに追い付くために必死で、もがいてるだけなの。

「んー、あとでみんなで一楽行くか。先生奢ってあげる」

大木の枝にいつものように座って本を読みながら。いつもと変わらず扱ってくれるのが本当に嬉しくて。

「みんな…、ありがとう…っ!」

やはり私はまだまだだと、思い知った。




(お願い、一人にしないで)

20100216



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