試された黒猫




 暫く沈黙が続き、源吉が大きな溜め息を吐いた。一方目の前のCHU-RINは笑ってる。嘲笑うとかそういったのではなくてただ純粋に楽しいから笑うといった感じ。
 首の圧迫が消えたかと思うと、CHU-RINは奥の部屋へと移動して行った。
 途端にずしりと体に重みが掛かり、後ろのドアに凭れる形になる。重みの原因は源吉。何度も何度も声を含ませた溜め息を吐き俺に抱き付いてる。

「源ちゃーん、おわかり?」

 奥の部屋から聞こえたのは、ベッドに腰掛けながら未だくつくつ笑うソイツの声。

「…よおわかった。」

 源吉の理解を受け取ったCHU-RINは満足そうににやりと笑みを深めた。気持ち悪い。
 源吉は尚も俺にしがみついてくる。背中から伝わる源吉の手の温度が熱くて、微妙に汗ばんでた。耳元からは鼻をすする音。

「ちょ、源吉。苦しい。」

 訳も分からずぽんぽんと源吉の背中をあやすように叩き、解放を促すが放してくれない。寧ろ益々力が入ってくる。俺の名前をひっきりなしに呼んで餓鬼みたいに泣きじゃくる源吉。息が詰まるほど苦しい反面息ができないほど嬉しい。
 俺を抱き締める腕の力が緩んだから、ゆっくりと体を離すと脱力したようにその場に座り込んだ源吉。俺も源吉と目線を合わせるためしゃがんだ。

「翼、かんにんやで」

 いきなり謝罪の言葉を言われても理解に頭が追い付かない。それはなんの謝罪なんだ?CHU-RINから助けてやれなかった事への謝罪なのか、はたまたさっきの俺の問いに答えられなかった事への謝罪なのか。
 俺が考えに耽っていると、ぽつぽつと源吉が言葉を発し始めた。


 内容を聞いていく内に、CHU-RINの性的な事態から今までのは"テスト"だったらしい。勿論そのテストを考えた挙句、勝手に実行したのは変態。
 テストが作られる切っ掛けは源吉がこっそりとCHU-RINに今後俺にどういう仕事をさせるかだった。
 確かにずっと隠れたままでは俺が裏業界に入った意味がなくなる。足を踏み入れた以上、なんらかの役目を果たさなければならない。
 源吉にとっては雑務係が良かったらしいが、CHU-RINは自分の元で情報収集を意見した。ここで二人の案がぶつかる。

『もしもの事があったら翼は対応でけへん!!そうやなくてもまだ右も左も分からん赤子やのに…。せやし俺が大丈夫やと思うまで翼は俺の側で雑務や!!それがいっちゃん安全やろ!!』

 というのが源吉の考え。一方CHU-RINは。

『あぁもお源ちゃんその大丈夫と思い始めるまで何十年掛かるの?源ちゃんはさあクロチャンの事甘く見すぎ、クロチャンの胆の座りようは凄いんだよ。』

その言葉に源吉は。

『俺の財布とって蒼白になりながら逃げよった餓鬼や!!そないな胆ッ玉なんぞ持っとるか!!持ってんねんやったら見せてみい!!』

 そう、この言葉がCHU-RINの中でテストが実行される引き金になったんだ。この後CHU-RINは源吉に厭らしい笑みを向け「見せてあげる」と言い放った。

 最初源吉がトイレから出てきた時はこの上なく焦ったらしい。頭が混乱してどういう状況なのか把握が出来なかった。まさかという予想をしていたらしいが。
 取り敢えず俺をCHU-RINから引き離して事情を聞くと予想が確信に変わったらしい。だからビックリしたような困ったような変な顔になっていたわけだ。
 俺のいない部屋で源吉はCHU-RINに激怒。何もあんなことまでしなくて良いだろうとか源吉が小声で怒鳴ったり、CHU-RINはあの方法が一番安全で分かりやすいと源吉からの鉄槌に不手腐れながら言ったりとか。


「じゃあ俺がさっき話した予想は」
「…アイツが勝手に正解ですみたいに言っとるけど、それは嘘や」

 なんか一人で突っ走ってたみたいで恥ずかしい。だけど事の最中に引っ掛かっていた曖昧な点はこれだったんだな。
 CHU-RINは態々人の欠点を言うような優しい性格じゃない。寧ろ"その人物の欠点を見つけては見下す"のが大好きな変態野郎だ。
 初めてCHU-RINに会ったとき、身分証偽造の為のターゲット山田孝行の説明態度を見てたら一発で分かる。何が楽しいんだそんなん。

「…翼、大丈夫か?」
「ああ、うん平気。源吉」
「どないした?」

―俺が満足するまで、変態を羽交い締めにしといてくれ。








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