自身の身体で、地に足を着く

自身の身体で、仲間たちに触れることが出来る

自身の身体で、愛しい人を抱きしめることが出来る

この10年間、求め続けたものが…ここに――――







=== affetto ===








夜が更けていく中、情事後の重たい倦怠感を残す身体を疎ましく思いながら意識を浮上させる

真っ白なシーツに包まって、長い前髪が視界を塞ぐ

掻き揚げるのも億劫なほど、身体が重たい

それもこれも、隣で眠っている自分より年下の上司の所為


「ッ……、ぅ」


前髪の隙間から見える相手寝顔はとても穏やかで、疲れなど全く無さそうだ

それを見るのが嫌で、背中を向けようと寝返りを打つ

腰に走った鈍痛に息をつめ、喉の奥に力が篭る

痛みに耐えようとして反射的に身体が硬直したが逆効果

まだはっきりしない意識の中、どうしたものかと考えるが力を抜くという簡単な行動を、今までどうやっていたのか分からなくなる

情けない、そう思いつつも、ゆっくりと息を吐いて何とか力を抜いていった


「はぁ…」


思わず溜息を吐く

何をやっているのだ、自分は…と頭を抱えたい気持ちになった

と、


「ひゃ…、っ!」


つぅーっと背筋をなぞられる感覚

背後にいる人物の細い指が、背骨をなぞる


「っ、な…よしくん…!」

「クスクス、可愛い反応」


言って、擦り寄ってくる

首筋にキスを落とされ、ビクリと身体が震えた


「身体、大丈夫?」

「…君は、元気そうですね」

「オレはまだまだ全然いけるよ〜?お前が途中で気を失っちゃったから、仕方なく観察してた」

「……」


―――寝ていたのでは、なかったのか…


完璧な狸寝入りに騙されたというわけか、と…目を閉じ眉間に皺を寄せる

本当にこの人は意地悪で、何を考えているのかまったくわからない


「ね、骸…こっち向いてよ」

「嫌です…動きたくありません」

「え〜?しょうがないな…」


よいしょ、と…そう呟きながら、両腕で身体を支えて起き上がる

上から覆われるように、見下ろされた


「うん、このままもう一回くらいできそう」

「今の話聞いてましたか…?僕もう動けませんよ」

「あはは、わかってるって、冗談だよ」


そのまま、ばふっとスプリングをきかせながら正面に寝転がってきた

キングサイズのベッドの上、まだまだ余裕はあるので中心から少しずれたところで落ちる心配も皆無だ


「大丈夫か?骸…」

「……こういう状況になったのは、誰の所為だかわかっての発言ですか?」

「はいはい、オレの所為ですよー、がっついてもーしわけありませんでしたー」

「まったく…」


呆れながら呟いて、仰向けに寝転んだ

横を向いていると、やたら腰に負担がかかる


「僕はもう寝ますよ」

「えー?」

「明日は君が溜め込んだディスクワークを僕が処理しなければならないんですよ?わかってます?」

「あれ?骸が手伝ってくれるの?」

「アルコバレーノからそういわれたのですが?」

「てっきり獄寺くんあたりにでも言ったのかと思ってたよ、だってお前まだ安静にしてなきゃダメなんだろ?」


復讐者‐ヴィンディチェ‐の牢獄から脱獄して早1週間

1週間経ったとはいえ、10年も水槽の中にいた人間がそうそう動けるはずもないのだが

如何せん、脱獄した翌日には戦線に立っていた

いったいどんな身体をしているのかと思いきや、数回の情事でへばってしまう程


「安静に、とは…どの口が言いますか」

「安静にさせてないのはオレでしたー」


ふざけたようにクスクス笑って、自身も仰向けになる

二人並んで天井を仰いで、一瞬の沈黙

先に音を漏らしたのは綱吉だった


「はぁー…オレだってつい1週間前まで仮死状態だったんだからなー」

「仮死状態の間にたまったツケが、アレ(ディスクワーク)ですか」

「いろんなもん溜まってたんだよ」

「下品」

「酷…」


苦笑を浮かべつつ、こうした日々が戻ってきたことに安堵感を覚える

もう、あんな未来は起こらない

それに、なにより…


「やっと…生身のお前に触ることが出来た」

「綱吉くん……」

「おかえり、骸…今まで、この10年間…よく頑張ったな」

「っ―――…、」


そういいながら、優しく髪をなでられた

途端、目頭に熱いものがこみ上げてくる

なぜだろう、この1週間…自分の身体で地に足をつき、自分の身体で戦い、仲間に触れ合うことが出来た

けれど…きっと実感がなかったのだ

でも、いま…


「綱吉、くん…」


頭だけを動かして、綱吉の居る方を向く

目頭に溜まっていた涙が、目尻を伝い、こめかみを伝い、真っ白なシーツに落ちた


「うん、オレはここに、いるよ…」


そういいながら、優しく抱き寄せてくれる

マフィアを恨み、世界を恨み、世界征服を目論んでいた少年は

この10年間、寒くて暗くて淋しい水牢の中にいた

能力で外界と繋がっていた間、人から愛されることを知り、人を愛することを知った

知ることが出来たのは、目の前にいて、抱きしめてくれる愛しい人がいたから


「愛してます…綱吉くん」

「うん、オレも……もう、絶対にお前を手放したりしないから…」


もう、邪魔するものは何もない

何があろうとも、決して離れることはない

たとえ、何を世界を敵に回すことになったとしても

永遠にそばにいて、互いに互いを守りながら生きていく


「もう、何があったって怖くないよ…」

「…、」

「だって、お前がここに居てくれるだけで、オレは無敵になれるんだから」


誰にも負けない

誰にも渡さない

誰にも譲れない


大切な、大切な、愛しい人―――…




fin...?








・・・あとがけ・・・

最初は、全然別の話になる予定だったんですけど…(^p^)
なぜかこんなことにww
本当はヤンデレ綱吉と骸の話を書くはずだったんです
でもなんか甘々になって、た…?
結果オーライということで…
多分ヤンデレツナ骸も書きますけどね^^!
駄文で申し訳ないです

ここまでお読みくださりまして本当にありがとうございました!

2010.04.23.
 倉紗仁望 拝

affetto[伊] 愛する人