素直になれない

素直になりたい

でも、それはプライドが許さない

どうしようもなく不器用で

それでいて繊細で

見ていて、すごくハラハラする


「ほら、今日の分なー」

「…たまにはもっとまともな物を持ってこようとは思わないんですか?」

「いいだろー?骸って実は乙女だし」

「何を馬鹿な事を…」

「それにさ」

「?」

「明日は―――…」


俺の言葉に、少し驚いたように目を丸めて

カレンダーを見て、困惑したような表情をする

やっぱり、不器用なだけなんだよね




=== accontentare ===




あくる日の、昼

一人の男性が六道骸の軟禁されている部屋へ出向いた

キャバッローネファミリー10代目、“跳ね馬”ディーノ

いつものラフな格好とは少し違い、スーツを着こなしていた

すでにボンゴレ10代目である綱吉には挨拶済みだ

もちろん、堅苦しい挨拶なんてしないけれど

嬉しそうに部下の一人、ロマーリオを連れて、軟禁されている部屋の前まで来た


「んじゃ、少ししたら戻ってくるから」

「あんまり長くは居られねぇぜ、ボス」

「わぁってるって、んじゃ」


言うが早いか、慣れた手つきで様々なセキュリティーを解除していく

その後ろ姿を呆れたように息を吐いて見送った





 








「“何でも一つだけ願いが叶うとしたら、何を望みますか?”」

「―――…は?」

「あぁすみません…昨日綱吉くんが持って来た日本の雑誌に書いてあったもので…」

「骸って意外とそういうの好きだよな?」

「僕の趣味ではありません、綱吉くんが勝手に持ってくるんですよ」

「あーツナなー、毎日来てんのか?」

「…あなたは、いつも唐突に来ますけれどね…一体今日は何の御用ですか?」


扉を開いて、骸が居るであろうリビングへ歩く

案の定、ソファーに仰向けで寝そべって雑誌を読んでいた

声をかけようとしたら、先ほどの言葉

思わず、挨拶も何もなしに会話を続けたが…


「おはよ、骸」

「あぁ、もう朝なんですね…おはようございます」


この部屋にいると、時間の感覚が鈍る

昼も夜も関係なく、骸は今、不規則な生活を送っている

何不自由無く過ごせるからこそ、骸は日に日に痩せている様に見えた

たまに連れ出して、太陽を浴びせて、お腹一杯ご飯を食べさせるようにしているけれど…


「骸…また痩せた?」

「気のせいでしょう…こんな不規則な生活をしてるんですから…逆に太ってると思うんですけれど」

「飯、食ってんのか?」

「お腹がすいたら、食べるようにしていますよ」


滅多に外に出ない

動くことも無い

時間の感覚も無い

これでは、いつか身体を壊してしまう

分かっているけれど…軟禁することで、復讐者から逃れられている


「さっさと着替えろ、今日は腹いっぱいになるまで食べさせてやる」

「はい?わざわざどこへ…って、そういえば今日はどうしてそんな正装を…」

「今日はパーティーがあるからな、お前も行こうぜ」

「……僕が、最重要危険人物ランクAオーバーって事知ってますよね?」

「知ってるよ、でも…オレの恋人として、一緒に来て欲しいんだよ」


そういいながら、骸の後ろ髪を手にとって上目遣い気味にキスを落とした

う…、と言葉を詰まらせて頬を染める

ぺち、とディーノの頬を叩いた


「生憎と…僕は貴方の恋人に見えるような人間ではありませんよ」

「何言ってんだ、こんなに美人なのに」

「…あなたは、いつもいつも…、っ――」

「――…ほら、早く着替えろって…」


文句を言おうとした口を、ディーノのそれが塞いだ

何か言いたそうに口を鯉のようにパクパクさせている骸の顔は真っ赤に染まっていた

思わず笑って、おでこにもキスを落とす


「服は、オレが前に買ってやったやつな」

「なん…っ」

「文句は言わせないからなー」

「――っ、あーぁもう!わかりましたから…少し待っててください」


そういって立ち上がると、寝室の方へ消えていく

今まで骸が座っていたところへ腰掛けた


「あー…あいつ、覚えてんのかな」


ぼそ、と呟くと、目の端に移ったのは先ほどまで骸が読んでいた雑誌

なんともなしに、パラパラと捲ってみた

昨日、綱吉が持ってきたと言っていたがやたらと折り目がついているページが目立つ


「骸がつけたのか…?」


パラパラとめくっていると、開き癖の残るページが開いた

バレンタイン特集

チョコ好きの骸らしいと思って、思わず苦笑を漏らした

日本のお菓子業界の陰謀だとしても、骸ならほいほいついていきそうだ


「まったく、オレはチョコ以下か…?」


苦笑を漏らしながら、ページをめくる

目に入ったのは、心理テスト

先ほど骸が言っていたものがそこにあった


「これ、か…」


―――もし、何でも願いが一つだけ、叶うとしたら…貴方は何を望みますか?


願いは、自分で叶えるものだ

なんて、思ってしまうのはこういう世界に居るからなのか…

あまりにも夢の無い自分の答えに、ディーノは自嘲するように眉をしかめた

骸は、一体なにを望むのだろう

訊かなくても、わかる気がする

侮蔑するように“マフィアの殲滅”と答えるであろう
 






「…」

「跳ね馬?」

「ぅあ…?!は、早いな骸」

「服を着替えるだけですからね…で、何を見てるんです?」

「え…あー…さっきの心理テストみたいなの?」

「質問に質問で返さないで下さい」


ピシャリと切り捨てられて口元を引きつらせる

やっぱり、骸はマフィアの殲滅でも願っていそうだ


「それで…」

「え?」

「あなたは、何を望んでいるんですか?」


珍しく、骸からディーノへの質問

いつもなら、こんなこと聞いてこない

胡散臭いと言って捨てるのが主だろう

でも、今日は―――…


「―――…オレの望みは」

「……」

「骸が、幸せになれること…かな」

「はい?」


面食らったような表情をして首を傾げる

驚いている

それもそうだろう

何故、自分の幸せではなく、他人の幸せを望むのか

これだからマフィアというのは分からない…とでも言いたそうに骸は眉をしかめた


「だってさ、骸が幸せなら…オレだって幸せになれるって思うんだ」

「…そんな根拠も何も無いものを」

「いいや!あるぜ!」

「っ?」

「オレがお前を幸せにしてやる…そうすれば、オレも幸せで居られるだろ?」


そんな、プロポーズまがいな事を言われて、骸は顔を真っ赤に染める

脳の血管が、沸騰してしまうような錯覚に襲われる


「骸?」

「……あ、あなたは…つくづく馬鹿ですね」

「な…?」

「僕が今充分幸せなことに、気付いていないでしょう」

「え…」


その一言に、思考が停止する

今、何と言った?

目の前にいる、素直ではない恋人は……


「…あなたが、傍に居てくれて、気にかけてくれて、遊びに来てくれて、好きだと言ってくれて…

愛してくれることが、僕には…とても幸せなことなんですよ」


突然の言葉に、何と言って良いのか分からなくなる

どうしようもない、衝動

なんだ、なんだ…

やっぱり、そうなんだ


「―――っ骸!」

「ぅ、わ…!」


いきなり飛びつかれて身体を支えられずに、床に尻餅をついた

ぎゆぅ、とおもいきり抱きしめられる


「オレ、今すっごく幸せだ!」

「……それは、良かったですね」

「やっぱり、骸の幸せがオレの幸せだな」

「―――…、そう、ですか」

「骸?」


急に黙り込んだ骸を怪訝に思い、首を傾げる

何か、気に障るようなことを言っただろうか

骸は機嫌が変わりやすいので、ディーノはいつも気にしていた


「…僕は、貴方に何もしてあげることが出来ないんですよ?」

「!」


弱弱しく言われたその言葉に息が止まりそうになった

俯いて、ディーノのスーツの端を両手で強く握り締める骸がかすかに震えてる


「…骸は、何もしなくて良いんだよ」

「…?」

「オレの傍にいてくれるだけで、良いんだよ」


―――それだけで、幸せだから


優しく抱きしめて、耳元で呟いた

骸が、こんなにも感情をさらけ出してくれる

今まででは、絶対に有り得なかった

いつも心を閉して、誰にも胸のうちを語ることはなかった

それなのに…


「オレのこと、信じてくれて、懐に入れてくれて…大切だって、思ってもらえたんなら…すっげぇ嬉しい」


骸の両肩に手を置いて、正面から顔を合わせる

ニッっと笑って、その笑顔が心を癒してくれる

やっぱり、貰ってばかりいて…何も返せそうにない

ただ、傍に居て、幸せだと思ってもらう事しか出来ない

なのに…それだけで良いとこの男は言う


―――でも…でも、ですよ?


「僕だって…そばに入れくれるだけで、嬉しい…です」


こんな日だから、こんなに素直になれるのだろうか

だって今日は―――…


「ディーノ」

「お?」

「生まれて来てくれて…ありがとうございます」

「―――…、」


少し驚いた顔して、へらっと破顔する

ほら、また

今日くらい…誕生日くらい、人に幸せを分けるのを止めれば良いのに

悔しいから、ネクタイを引っ張ってキスをした


「…っ?」

「何も、用意できませんでしたから…その…」

「―――ありがとな、骸」

「……僕は、素直じゃないですからね…今日だけですよ!」


ぷぃっと、そっぽを向く

いい加減この体勢が疲れてきたのか、すっと立ち上がると骸の脇を持って立ち上がらせた

身長差は、そんなに無いはずなのに…


「大丈夫かー?床、硬かっただろ?」

「…大丈夫です」

「んじゃ、パーティー行くか」

「……」

「骸?」


はしっ、とスーツの裾を握られて前に進めない

恥ずかしそうに俯いて、頑張って何かを言おうとしているのが見えた


、の…その…も…、っ…もう、少し…


言いたいことがわかったのか、ディーノは目を丸くするとすぐに嬉しそうに頬を緩ませた

スーツの裾を握っていた手を取って、そのままソファーに押し倒す


「な…っ」

「もう少し、だけな?」

「ば…、こんなこと…っしてたら…パーティーに遅れ…っ」

「だーいじょうぶ、主役が居なきゃパーティーは始まんねぇから」

「っ…種馬が!」




 






「……遅ぇな、ボス」


――パーティーの時間、3時間ずらして伝えておいてよかった…本当に


厳重ロックされている扉の前で、警備の人間と世間話をしながらロマーリオは思ったとか




〜 Buon Compleanno!〜





fin.








≫あとがけ

当初の目的見失ってる気がしますが
ぼんこんぷれあんのでぃーの!←
もう、あと30分くらいで8日になってしまうけどね!
4日も遅れてますね…!
ごめんよ、愛はあるんだ、愛は

たまには骸を素直に!
とか思ったらまさかの乙メンぶりに引きそうに…^^
素直すぎました!
そしてオチが…
これぞやおい!
やまなしおちなしいみがなし

それでも良い
後悔はしない方だ

では、ここまで読んで下さってありがとうございました!

2009.2.7.
 倉紗仁望



accontentare[伊] 願いをかなえる