「……雨、か」


応接室の窓から外を見る

がたがたと窓にたたきつける土砂降り

教師は幾人かいるのか学校内に気配がある


「……帰ろうかな」

「委員長、お帰りですか?」

「うん、君ももうあがっていいよ」

「は…」


休日だというのに学校に来ているのはいつものこと

ただ、最近台風が過ぎ去ったばかりなので雨が降るなどとは思ってなかった

そういえば、今朝はニュースを見ていない


――濡れることは別に嫌いではないし…


恭弥は手早く身なりを整えると応接室の鍵を閉める

家に帰ってまずシャワーだな、と考えながら昇降口へ向かうと一つの影


「おう」

「……何してるんだい、今日は学校休みだよ?隼人」


昇降口にいたのは煙草を咥えて曇天を仰いでいた獄寺隼人

まさかいるなんて思っていないの正直驚いた


「んなこたわかってんだよ、ただちょっとふらーっとしてたらここにいただけだ」

「ふぅん…?」

「…、んだよ」

「別に、僕に逢いにでも来たのかと思ってね」

「ば…っ!んなわけあるか!!」


そういってるわりには満更でもなさそうな隼人の表情

頬を染めているのがなんとなく可愛い

恭弥は喉の奥でクスリと笑うとその隣に並んだ


「君、傘持ってる?」

「たりめーだ、今朝の天気予報で夕方からの降水確率70%だったからな」

「それなのに外出?」

「……」


二の句が次げないのを知っていてこの質問


――この鬼畜野郎


  















「隼人?」

「――…っ!!」


気づくと覗き込んでいた恭弥のドアップに驚く

ハーフの隼人も十分綺麗だが、恭弥は純日本人特有の綺麗さがある

黒曜石のようなその瞳に見つめられると顔の熱が上昇するのが解る


「なに紅くなってるの」

「っ…別に紅くなってなんか…!!」

「そういえば君、今日誕生日だったね」

「なっ…!!」


脈絡のないその台詞に隼人は驚くばかりだ

今日は9月9日

隼人が生まれた日


「君がおとめ座ねぇ…」

「な!好きでなったわけじゃねぇ!!」


だいたいなんでそんなこと言い出すんだこいつ…別に星座なんて気にしないようなやつが

苛々してきたのか隼人の眉間の皺がより濃くなる

それに気がついたのか、恭弥はふっと微笑む


「誕生日、おめでと」

「……おぅ」


あまり知られていない自分の誕生日

さすがは風紀委員長、記憶力は抜群なようだ


「悪いけど、何も用意してないし、今はなにも持ってないんだ」

「あ?じゃぁ傘も持ってねぇのかよ」

「君と違って今朝はテレビを見ていないからね」

「しかたねぇやつ、入れてやるからさっさと帰ろうぜ」


そういって傘を開いて一歩進む

すでに短くなった煙草を携帯用灰皿に押し付けてポケットにしまった


「ついでだから寄っていきなよ、途中でケーキでも買って」

「うわ、てめぇーとケーキ屋なんかいきたくねー」


っていうかそんな場面山本にでも見られたら大変だ

どうせあいつのことだからまた茶化すに決まってる

しかも綱吉の前で

それだけは避けたい

雨の中相合傘をしながら悶々と考える

 







「あぁ、あの野球部のことなら気にしないでいいとおもうよ。野球部の強化練習合宿で夜中に帰ってくるから」

「な…!」

「なに、違うの?」


違 わ な い け れ ど !!


なんで考えてることがわかるんだとでも言いたそうな隼人の表情に思わず噴出す

訝しげな表情をして恭弥をみた


「…んだよ」

「君、考えてることが顔に出るよね」

「はぁ?!」

「感情が正直って言うか、まぁそういうのもいいかもしれないね、解りやすいし」

「全然よくねぇ!!」


そんなんでマフィアなんかしてたら敵にもろバレではないか

それはいけない

なんとしてもそれだけは避けないと

ボンゴレ10代目の右腕がそんなんではどうしようもない


「あ、ちょっと待ってなよ」

「あ?」


そういうと雨の中小さな店に向かう

向かう先には小さなケーキ屋

いかにも古くからここにありそうなケーキ屋だった

女子が好みそうなものではなく、主婦や家族連れが好みそうな…



 





「って、早…」

「ん?」

「いや、普通そんくらいのケーキだったらもうちっと時間とか…」

「あぁ、予約してあったからね」

「はぁ?!」


今日は自分でも驚いてばかりいると思う

予約していたということはどちらにせよ今日隼人の誕生日を祝うつもりでいたのか


「…もしかして今日雨が降ることも、俺が学校行くことも知ってたとか…」

「さぁ?どうだろうね」


その表情からは真意は読み取れないが、なんか悔しい

隼人は煙草に手を伸ばして一本取り出す

と、それは横から取られてしまった


「てめ…っ」

「隼人、火」

「あ?…ん」


鳴れた手つきで、手にしていたライターに火を灯して恭弥が咥えた煙草に点ける

軽く吸い込んで、ふぅっと吐き出す


「風紀委員長様が喫煙なんかしてていーのかよ」

「いいんだよ僕は……君、もう少しマシな煙草吸ったら?不味い」

「だったら吸うな!」

「いいよもったいない」


一方的に突っかかってばかりいる隼人とさらりと受け流す恭弥

そんなやり取りが続いて恭弥の住まうマンションにたどり着く


「隼人、鍵」

「ん」


合鍵を使って中に入る

なんかこうしてると夫婦みたいだなーとか思うのは秘密だ




 





「って、何だよこの“はやとくん”って…」

「おたんじょうびおめでそうはやとくん」

「棒読みでいうな!!気色悪い!」


私服に身を包んだ恭弥が戻るとすでに箱が開封されていた

茶色で統一された少し小さめのホールケーキ

ちょこんと季節外れのイチゴがのっている


「特注で作らせたから味は保障するよ」


そういいながら供えついていたケーキナイフで丁寧に切り分ける

二人では少し多いかもしれない


「ちょっとまて、晩飯は?」

「作ってあるよ、二人分」


ちょっと待っててね


そういい残してキッチンに向かう恭弥の後姿を見送る

ちょっと放心状態なのか固まったままの隼人


ん?ちょっと待てよ、作ってある?

つまり俺がここにくることは計算されてたってことか?

今朝テレビ見てないってもしかして料理作ってたからとか?

なんなんだよ、それ…


「お待たせ」

「…なんだし、この気合の入ったものは」

「せっかく誕生日なんだし、たまにはいいんじゃない?」

「……はー」


思わず、ため息

二人で食べ切れるのかわかったもんじゃない料理がずらりと並ぶダイニングテーブル

なんでそんな気合いれてんだこいつ

なんにも用意してないとか嘘じゃないか


「〜〜〜…はめられた」

「はいはい、ハめるのは夜のお楽しみで今は食事」

「って!ヤる気満々かよ!!!」

「つべこべ言わない。はい、おすわり

「俺 は 犬 じ ゃ ね ぇ !!」


突っ込みどころ満載な恭弥の台詞たち

あ、なんだか疲れてきた

もうどうでもいいや、と投げ出してドカッと椅子に座った


「じゃ、改めて…誕生日おめでとう、隼人」

「…ん」


あまり知られていない自分の誕生日

こうして祝われるのはいつぶりだろうか

そんなこともうどうでもいいとすら思えるのは、こいつのおかげか

食後に食べたケーキはチョコかと思いきや珈琲で、少し驚くも隼人の好きな味だった

なんだかこういうの、慣れてなくてなんていったらいいのかわかんないけれど…



「サンキュ、恭弥」



幸せな誕生日をありがとう


  


fin.





→→なげやり

ヒ バ リ さ ん に 隼 人 っ て 呼 ば せ た か っ た だ け で す !!! (爆

初ヒバ獄ーーー!!
そして誕生日おめでとう隼人!!
最近名前呼びなのを許しておくれ!(ここでいうな
ヒバリさんに煙草吸わせられただけで満足でした!(貴様

2007.9.9.
 倉紗 仁望