だるい

熱があるらしい

今日はこのまま家に帰ろう

帰っても誰もいないのだが…


「…っは…ぁ」


身体が思うように動かない

関節が軋む

息苦しい


「んぁ?お前ヒバリじゃねぇか?」

「……?」


壁に寄り掛かって息を調えていると後ろから声を掛けられた

そこには近くにある中学の制服を来た不良と見受けられる少年


「なんだなんだぁそのなっさけねぇ姿はよぉ」


ツイてない

身体がいうことを聞かないときに限ってこういうのにあってしまうのだろうか


「まぁどーでもいいけどよぉ、こないだテメェにぼこぼこにされた恨みつらみ、今日こそはらわせてもらうぜぇ」


そう言って殴りかかってきた相手を一歩下がって避ける

トンファーを取り出して相手の拳を止める

しかしそれだけで身体ががくんと揺れる


「なんだなんだぁ〜?天下の風紀委員長様がこんなもんかぁ?」


下品な笑い方

気持ち悪い

そう思うも身体は言うことを聞かない


「―――っるさい、咬み殺す」


ここで負けるわけにはいかない

並盛の秩序を守るために

無理に身体を動かして相手の急所を狙っていく

ぽつりと頬に水がはねる

雨が降ってきた


「〜〜〜っなめやがってぇ!!!!」


近くの工事現場かなにかに転がっていたパイプを手に持って振り上げてくる

それをトンファーで受け止めようと腕を振り上げた

すると後ろから鈍い衝撃


「ざぁんねんでしたぁ〜」

「――っ」


どうやらもう一人いたようで、手には先の奴と同じくパイプが握られている

気持ちの悪い笑みを浮かべて見下ろしてくる

こんな身体じゃなかったらと、歯軋りする


「で、どぉするよ」

「決まってんだろ」


あぁやられるなって、わかった

こんな奴らに―――…っ


「おやおや、こんなところにいたんですね」

「あぁ?」


この、声は…


「ぁんだてめぇ!そのふざけた頭は!パイナップルか?!」


あぁやっぱり、そうだね


「くふふふふ、誰が、パイナポーですか!!!!!」


瞬間、そこにいた二人は倒れ伏していた

何があったのかわからないけど……


「大丈夫ですか?恭弥」

「何しにきたの…パイナップル」

「…、助けてあげたというのにそれはないでしょう」

「だったらその頭、どうにかしなよね」


面白いくらいに苦笑いのパイナップル、もといパイナポー…

六道骸


「まったく、こんな身体で無理しないでくださいよ」

「なんでここにいるの」

「くふふ、彼方を守るために参上しました」

「その頭の葉っぱむしるよ」

「な…、これは葉っぱではありません!」


向きになるところがまた面白い

無意識に笑っていたようで骸がきょとんとした表情をしている


「早く帰りましょう、こんなに熱があるのに何してたんですか?」

「仕事に決まってるでしょ」

「はぁ、またそれですか…責任感強すぎです」


そういって軽々と僕を抱き上げる

それにすこし腹が立った


「ちょ…っ」

「くふふ、病人はあまり動かないでください」

「君に助けられるくらいなら死ぬ!」

「おやおや、それは困りますね」

「なん…っ!!」


急に顔を近づけてきたと思ったら口付けられた

瞬間、意識が遠くなるのを感じる


「くふふ、少しの間…眠っていてください」

「っの…腐れパイナップル…が」


瞬間、意識が闇に溶け込んでいった














「まったく…ここまで来てその南国フルーツの名を口にしますか…」


ぐったりとした恭弥を所謂お姫様抱っこ、というのをして恭弥の家に向かいます

こんなになるまで仕事をして、しかも雨に打たれる中で喧嘩を買って…

どこまで僕に心配させるつもりでしょうね


「ホントに…心臓に悪いですよ」


雨に撃たれながらも目的地に着き鍵が閉まっていたので合鍵で潜入

一人暮らしには少し広いこのマンションの一室に恭弥は住んでいます

両親が健在なのか、それすらも知りません


「まずはこの濡鼠になった身体をどうにかしたいですね…」


なるべく廊下を濡らさない様にしながら風呂場へと向かう

清潔なタオルで恭弥を拭いていきます

服を剥ぎ取ってパジャマに着替えさせて…

こうしていると可愛いですね、僕の恭弥

熱がなかったらこんなことさせてくれませんよね


「―――、ぁ…?」

「おや、お目覚めですか?」

「……む、くろ?」

「あぁやっと名前で呼んでくれましたね」


焦点の合っていない目で僕を見上げる


「…ずいぶん冷えてしまいましたね、お風呂入りますか?」

「……」


コクンと小さく頷く恭弥に思わずときめいてしまいました

僕に甘えてる…ととっていいのでしょうか

それはそれで嬉しいですね


「…」

「どうかしましたか?」

「おろしてよ」

「あぁ、そうでしたね」


名残惜しいですが、病人を襲うことはしません

僕にも情というものがありますからね

それを口にすればきっと彼方は疑いの孕んだ目で僕をみるでしょう

だからこれは言わないでおきます

さっさと僕を洗面所から追い出すと、音を立てて扉を閉めてしまいました

まったく、そういうところが可愛いんですよ





シャワーを浴びて、今日あった事を振り返る

あそこであんなやつらに会わなければ、と後悔してしまう自分がいることに恭弥は腹が立っていた

しかも骸に助けられてしまったことにも


「まったく…今日はついてない」


一通り済むと、浴室から出る

パジャマを着て、濡れた髪を乾かす

そこでふと何かにおいに気付く


「……?」


一体何の匂いなのか気になってさっさと済ませてキッチンに向かう

そこには料理をする骸の姿が


「…何してるの」

「あぁ、風邪っぴきな恭弥に何か暖かいものでも、と思いましてね」


そういって差し出されたのはおじや

そのできばえに驚くも、恭弥はそれを口に運ぶ


「どうですか?」

「まぁ、悪くはないよ」

「なんですかその言い草は」


少し怒ったように唇を尖らせる

それが子供っぽくて笑えた


「今日は珍しく、よく笑いますね」

「そう?……君がいるからじゃない?」


不意打ちなそのセリフに骸は目を見張る

そして急激に頬を染め上げた


「ちょ、き…〜〜〜…っそれ、反則ですよ」

「なにが」

「天然ですか、そうですか、はぁ」


もくもくとおじやを口に運んでいく姿と見つめる

その姿が愛しいと思う


―――これはもう、重症ですね


元は敵同士だった二人が今こうして同じ場所にいることが不思議でならない

これは全て夢なのではないかとさえ思える

でも、それでもいい


「たとえ夢だったとしても、僕は幸せですよ」

「?何、いきなり…」

「くふ、なんでもないですよ」


訝しげに首を傾げる恭弥

それに笑顔を向ける骸

恭弥はおじやを食べ終え、片付けようと立ち上がる


「あぁいいですよ、病人は真っ直ぐベッドへ行って下さい」

「…その病人っていうのやめてくれない?」

「病人に病人っていって何がいけないんですか?」


問答無用とでもいいたそうに食器を片付ける

ふに落ちない部分がいささかあるものの、風邪を引いているのは変わらないので恭弥は寝室へ向かう

ベッドにもぐりこんだところで骸が入ってきた


「それじゃぁ僕はこれで失礼しますね」

「…何か用があったんじゃないの」

「彼方に逢いに来ただけですからね、目的は果たしましたよ」

「それならいいけど…」

「それじゃぁおやすみなさい、恭弥」


そう言って扉を閉めようとドアノブに手をかける


「あぁそうだ、骸」

「はい?」


急に呼び止められて骸は少し驚いた表情をしている


「さっきの話…、これは夢なんかじゃないんだから安心しなよ」

「は…」

「それじゃぁおやすみ」


そういって骸に背を向けて寝息を立て始める

呆然とそこに立ち尽くしていた骸は扉を閉めマンションを後にする


「…くっはははは、まったく…天然とは怖いですね」


―――でも、それはそれで嬉しかったですよ


いつの間に止んだのか雨はすっかりと上がっていて綺麗な満月があたりを照らしていた