「おはようございます、恭弥」

「……な、」

「早く起きないと遅刻しますよ?風紀委員長ともあろうあなたが遅刻なんてしたら他の生徒に示しがつきませんからね」


朝、誰かに起こされて目を覚ました

ゆっくりと眠気の覚めない頭を擡げて上半身を起こすと、そこには当然のように存在している人物がいた


「な、んでお前がここにいるの…パイナップル」

「骸です!!」


真面目に驚愕の表情でそういう恭弥に骸は反論する

ここは恭弥の家の寝室

一人暮らしの恭弥の家に他の人間がいるはずもないのに…


「どうやって入ったの」


――鍵がかかってたはずなのに…


そう呟く恭弥にきょとんとした表情で骸がいう


「何を今更、鍵なんて僕には意味がない代物ですよ?」

「…君がいうとなんでか納得できるね」


普通ではありえないこと

侵入者を防ぐためにあるセキュリティーシステムのついた高級マンションの鉄壁でも

この男にはまったく意味のない代物だ


「くふふ、さぁいつまでもそんな格好していないで早く着替えてください
朝食の準備はできてますから」

「……」

「なんですか?」

「どうしてそうも自然とここに馴染んでるの」

「くふ…それも今更、ですよ」


それもそうかと頭の中で完結させてさっさと制服に着替える

ダイニングへ行けば二人分の朝食

勝手知ったる他人の家、とでも言うべきか


「そうです、今日はお弁当も作りましたからもって言って下さいね」

「……」

「……」

「……」

「……なんですかその顔は」


とてつもなく変なものを見る目で骸をみる

それに骸は笑顔のまま言った

恭弥は一つため息を吐くとコーヒーを口に含んだ


「そもそも、この家のどこに弁当箱があったんだい?」

「あぁそれは僕が昨日調達してきました」

「……何がしたいの君は…」

「くふふ、特に何がしたいということはありませんが…そうですね
彼方とこうした時間を過ごしたいだけかもしれませんね」

「…」


寂しげな表情をする骸に思わず箸が止まる


「どうしました?美味しくないですか?」

「…そんなことないよ」

「―――…珍しいですね、そんなことを言ってくれるなんて」


いつもなら軽口を叩くはずなのに…

珍しく素直な恭弥に頬が緩む


「それじゃぁ、そろそろ行かなきゃね」

「あぁ、もうそんな時間ですか」


そう言って立ち上がるとキッチンから包みを持ってきた


「はい、お弁当です」

「…これを僕に持って行け、と?」

「おや?お気に召しませんでしたか?小鳥」

「……」


それはなんともファンシーな黄色い小鳥がプリントされた淡い水色の包み

これを天下の風紀委員長がもっていたら不気味がられることだろう

でも、これはこれで…


「それじゃぁ、ありがたく頂いていくよ」

「それはよかったです…いってらっしゃい、恭弥」

「―――…」


その言葉を聞くのは、一体いつ以来だろう

恭弥はクツを履くと振り返ることなく小さく呟いた


「行ってくるよ―――骸」