ちくちく ちくちく

ぷち…、


「っ痛…」


点のような傷からぷくん、と血があふれる

そこを涙目で舐めると、綱吉は息を吐いた


「…こういうの、苦手なのかな」


ほかの家事なら、任せろ!って感じ何だけど…






=== ちくちく ===







「恭弥さー…ぁ?」


放課後の応接室

付き合ってからおよそ半年、そこへ通うのはすでに毎日の日課となっていた

最近では、友人である獄寺隼人や山本武とともに帰ることも少ない

応接室にいる彼に逢うために足しげく通っている

しかし今日は…


「…いない?」


珍しく恭弥の姿は無い

もちろん、恭弥がいつもそこにいるとは限らない

屋上にいたり、巡回していたり

忙しい身なのは知っているし、それも理解している


「あーぁ…いっか、待ってれば帰ってくるし…」


応接室の鍵が開いていたのが論より証拠

帰ってしまったときは必ず鍵は閉まっている

帰ってくることは分かっているのだ、わざわざこちからか探しに行くことも無いだろう


「……帰ってくるまで、寝てよ」


最近回りがうるさくて静かに眠れる機会が減ってきている綱吉だ

こういう時こそ睡眠をとるべきだろうと、自己完結させてソファーにこてん、と横たわる

すぐに眠気に襲われて、意識は闇へと沈んで行った

 


―――のが、つい1時間ほど前のこと


目が覚めると、身体の上だ何かで覆われている

起き上がって、それが学ランであることが分かる

勢いよく、いつも恭弥の座っている椅子の方へ向き直った

けれど、そこには誰もいなくて…


「…あ、書き置き」


綱吉の眠っていたソファーの目の前にあるテーブルに、メモがあった

それを手にとって、短いその文面を寝ぼけ眼で読む


『見回り行ってくる

      すぐに戻るよ
                恭弥』


「…もー…起こしてくれればよかったのに…」


そんなことしないと、知っているのだけれど…


「恭弥さん、優しいなー…、?」


自分にかかっていた学ランが恭弥の気遣いを物語っている

綱吉以外の人間にはとことん冷たいけれど、自分が特別だって思えることがすごくうれしい

不意に見た腕章が、綱吉の目に留まった


「ほつれてる…けど、」


直したほうがいいのかな


そう思って、裁縫道具が無いか探す

以外にも恭弥の使っている机の引き出しからそれが出てきて少し驚く

しかし、確か以前に、恭弥が腕章を直しているのを見かけたことがあったかもしれない


「…恭弥さん、これ大切にしてるんだ」


ほかにも腕章はあるけれど、それらを大切に使っている

少し忘れがちだが、さすが風紀委員長様


「…よし!俺が直しておこう!」


恭弥は忙しい

だったら代わりに誰かやる人が必要だと思う

ならはやり、恋人である自分がやるべきだろうそうだろう

綱吉は意気揚々と裁縫道具に手を伸ばした


そして、今に至る


「あー…なんか、みすぼらしくなりそうこれ」


風紀の腕章に綱吉の血が少しだけついてしまう

赤い部分についたのであまり気にならないのだけれど、いかんせん、そのうち黒ずんでくるのは目に見えている

そういえばこの腕章はいつも人の血を吸っているのではないだろうか

なんだか少し、怖い気もする


「…ホント、恭弥さんってよく分からない」


――群れるな、咬み殺す…

いつもそう言っては、トンファーで群れている人を情け容赦なく滅多打ちにする

それでも、並盛がすごく好きで、学校を壊されるとすごく怒る

いったいなんでそうなのかは知らないけれど、恭弥が好きだと思うものは本当に少ない

そのうちに自分が入っていることがすごくうれしい綱吉だ


「…もうほつれてるとこ、なさそーだな…」


でも、この血のあとどうしよう

それに悩みながら、先ほど針で刺してしまった自分の人差し指を咥える


「ねぇ、何勝手にけがしてるの」

「きょ、恭弥さん?いつの間に…」


ひょい、と咥えていたほうの手を捕まえらて、不機嫌そうに綱吉を見る


「す、すみません、勝手なことして…汚して…」

「そっちの“けがす”じゃなくて、この指の“怪我”の話」

「ひゃ…っ」


またぷっくりとあふれてきた血を恭弥が舐める

驚いて変な声を出してしまって綱吉は赤面した

それを面白そうに見てのどの奥で笑った


「それにしても、下手だねぇ」

「ゔ…すみません」

「でもまぁ、頑張ってくれたんでしょ?」

「ぅ…あー…はい、まぁ///」


いまさらながら、照れる

恭弥さんの役に立てないかと考えた末にしたことなのに、うまくできない自分が恥ずかしい

それでも、恭弥が喜んでいるのが分かって、気恥ずかしい


「綱吉にしては、よくできたんじゃないかな…料理は上手でも、裁縫は苦手みたいだね」

「ぜ、絶対に上達します!!」

「――…クス、楽しみにしてるよ」

「はいっ!」


なんだか、花嫁修業中の女の子みたいだな、なんて恭弥が思ったことを綱吉は知らない

これからも知ることは無いだろうけれど…

少なくとも、役に立たないものではない

それを知っているから一生懸命な綱吉に思わず破顔する

どうしようもなく愛しいこの子と、いつまでも一緒にいたいと思える

こんな感情を自分が持ち合わせていただなんて、14年生きてきて知らなかった


「ね、綱吉…」

「なんですか?恭弥さん」

「愛してる」

「―――…、お、俺も、です///」


初々しいその反応はまだ変わらないけれど…

本当に、大切だと思える

これからも、ずっと…





fin...


≫あとがけ≫

てふてふの集い本館2周年記念に書いたんですが…
なんかもうまとまらないなー…orz
あれ、リボのトレーディング?カードでヒバリさんが風紀の腕章縫ってるやつあるじゃないっすか
ジャンフェスで買ってそれ出たときはもう自分死んでもいいじゃないかとか思ったほどです
あれすごい
ヒバリさんが楽しそうに腕章縫ってるんだもん、かわいい…
つっくんにもそういうのやってほしいなー!!
みたいな感じで書きました
楽しかったのはきっと書いてる本人。←

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!
これからもてふてふの集いをよろしくお願いしますv

2008.3.18.
 倉紗 仁望