==== コイ ==== 沢田綱吉 said. ====



今…何してるかな…

早く逢いたいな…
 
また…なにも話さないで終わるかな…





いつもいつも…同じことを繰り返す――――…





あと10分…

あと5分…

あと1分…

もうすぐ逢える…

今日は何を話そう…
 
そんなことを考えながら…いつもと同じ廊下を歩く…

いつもと同じ…

扉を二回ノックする

返事は無いけど…それはいつもと同じ…

扉を開けば、机に向かう彼方がいる

書類にペンを走らせているその手はすごく綺麗

この手であのトンファーを振り回しているのかと、不思議に思う


「どうしたんですか?ヒバリさん」


応接室 課後 夕焼空 つもと変わらない彼方

でも…どこか違ってた

不安そうな表情をしている


書類から顔を上げた彼方が、まっすぐ俺を見る


「ヒバリさんがそんな顔してたんじゃ、俺だって悲しくなりますよ…」


彼方がそんな顔をしていたんじゃ…笑えない
 
彼方はいつも不敵に笑って人を見下すような…そんな表情じゃないと…

何かあったのかな…
 
 
「綱吉……」


名を呼ばれて、手を伸ばされて…その手が俺の頬に触れる

 
「なんですか?」


珍しく弱気な彼方を見て…安心させるように微笑む
 
この手に触れられるのは俺だけ

こんな表情の彼方を見れるのも…俺だけ

少しひんやりしたこの手に自分の手を添える

俺の手の方が…少しだけ暖かい

 
「……綱吉」

「はい」


何度も名を呼ばれる

そのたびに返事をする

彼方の声で名を呼ばれると、心が温かくなる

何か言いたそうな表情で何度も何度も…

本当は…いつでも一緒にいたい
 
でもそれは…彼方に迷惑になる

きっと彼方は、自分がそばにいれば俺から友達が逃げていくなんて考えているのだろう

でも…あの二人はそんなことない
 
それに…

俺は彼方がいてくれれば…何もいらないんですよ…?

でも俺は弱いから…

彼方の傍にいれば彼方に迷惑になる
 
足手まといにはなりたくない

もっと強くなりたい…

彼方の隣にいられるように…


「―――…綱吉………」


一筋…頬に涙が伝っている

声も震えている…

俯いてしまった…

ねぇ…もっと良く見せてよ

彼方の顔…

隠さないでいいから…

頬に伝っている涙が綺麗だと思って…彼方の頬に触れた


「どうして泣くんですか…?」


俺の所為ですか…?


「どうしてそんなに悲しそうなんですか…?」


そんな顔をさせているのは俺…?


「俺のこと…嫌いになりましたか…?」


もう傍にいては…いけないんですか…?

そんなのイヤだ…

でも、彼方がそう望むなら…

 
「――…ょし…」


震えた声で呼ばれる

 
「つ…ぁ、しっ」


頬に触れている手に水滴が落ちる


「つな、…しっ」


なんで泣くんですか…

どうして…そんな…


「――綱吉…っ」

 
必死に俺の名を呼んでいたヒバリさんが、椅子から立ち上がって机の上に腰掛け、抱きしめられた

その行動に呆れ半分に声をかけた 

 
「…ヒバリさん…書類、破けちゃいますよ…」

「…ぃぃ…」


予想と変わらぬ返事がきて、クスっと笑う

背中に腕を回してなるべく優しく抱きしめる

この体温が快い…


「どうしたんですか…?」

「…」


返事は、ない


「言ってくれなきゃ…俺、解らないですよ…?」


嘘だ…本当はわかってる…

でも、それは俺の願望…
 
そうであって欲しいよ思う…願望


「…」

「…ヒバリさん…?」


抱きしめられる力が強まった

離れたくないと、言われているような気がした…

これも俺の自己満足…?

好かれているって…自意識過剰なのかな…?


「もう少しだけ…こうさせて……」


弱弱しく耳元で呟かれたその台詞に、嬉しくなる

あぁ、この人も俺と同じ気持ちなんだって…思える

言葉にしたら…いけない

俺は、彼方のことが好きなんです……