「ど、どうしたんですか?!恭弥さん…っ」

「あ、いらっしゃい綱吉」





=== あなたのために ===





よく晴れた、朝

どこまでも広がる大空に雲が漂う

一番好きな、空

突然、綱吉のケータイに着信

見たことの無いその番号に首をかしげながらもとりあえず出てみることにした綱吉

すると、思ってもみないところからであることが分かる


「え、並盛総合病院…?」


以前何度か入院した経験のある病院からの着信

しかし何故自分の電話番号を知っているのか、そこが問題であった

一体、何事かと


「―――…恭弥、さんが?」


思わぬ人の名に綱吉は目の前が真っ白になった





 





「わざわざ来てくれたんだ、おはよ」

「おはようございます、じゃなくて…っ!!」

「あぁ適当に座ってくれてかまわないよ、個室だし」

「恭弥さん!!」


思わず声を荒らげて名を呼ぶ

するとぴたりと静止する恭弥

跋の悪そうな表情で綱吉を見た


「何があったのかちゃんと説明してください」

「…ちょっと、転んだだけだよ」

「恭弥さん…っ」


腕に包帯…足にも

どうやら頭や顔に傷は無いようだが、こんな怪我を負った恭弥をみるのは初めてだ

本気で心配する綱吉に恭弥はなんと言って良いものか悩む

正直に話せば、きっと呆れた表情をするだろう

でも、ここは正直に話さなければならないらしい

観念したのか、恭弥は息を吐いた


「まぁ、いつものようにバイクで綱吉の家まで行こうと朝早くに家を出たんだ」

「…俺の、所為ですか」

「ちょっと待って、まだ話は続いてるんだから」

「………」


でも少なからず関係が無いわけでもなさそうで、綱吉は大人しく近くにあった椅子を引き寄せて座った

それに苦笑して恭弥は話を進める


「ね、綱吉は覚えてるよね、あの猫…」

「猫…?」

「前に綱吉が助けて、大事になったでしょ」


一瞬、なんのことか分からなかったが、そういわれて合点のいった綱吉は目を見開く

あの猫にはいろいろと迷惑を被った

トラックの前に飛びだして、今にも轢かれそうで綱吉が助けようとして轢かれてしまった

その後、飼い主の人に何度も御礼を言われて一段落

もう二度と関わることは無いと思っていたのに…


「まさか…またその猫が飛び出してきたとか…?」

「そのまさかなんだけど、少し違うんだ」

「?」

「その猫の、子供が飛び出してきたんだよ」

「こ、子供…っ?」


思わず驚く

確かに猫は時期でたくさん子供を作るというがこんな短期間で…

もしかしたら綱吉が助けた時点で身篭っていたかもしれない

ん?でも…


「オス、でしたよね?」

「あぁ、どうやら他の猫を孕ませたみたいでね」


あぁ聞きたくなかった一言

なるほど発情期の猫というのは大変だというけれど…


「飼い主の人も大変ですね」

「まぁそうだね…」

「じゃぁその猫をよけて…?」

「まぁ、そんな感じかな…実はその綱吉が助けた猫も、子猫を助けようとして飛び出してきたんだ」

「えぇ?!」

「ホント、運転手としては驚かされてばかりだよ…おかげでハンドル操作を誤ってこの様だし」


自分に呆れた、とでも言いたそうに肩を竦めて見せる恭弥

しかしそこで綱吉には疑問が残る


「…猫を轢きそうになって避けるのは人間の本能ですけど…なんで恭弥さんは避けたんですか?」

「なんで?」

「だってあのとき、あの猫を呪い殺しそうな勢いでしたし…」


そう、恭弥にとってその猫は疫病神以外のなにものでもない

綱吉の記憶がなくなって、とても辛い思いをした

本当にトンファーの錆にしようとしていたと思う

でも、今回は助けたのだ


「…だって、綱吉が命を張ってまで助けた命を、僕が終わらせてしまったら…綱吉に失礼、でしょ」

「――…」


思わず、瞠目

恨んでいるのではないかとばかり思っていたのに、そんな…

でも―――…


「でも、恭弥さん、傷付いて…」

「こんあのかすり傷だよ、綱吉に比べたらどうって事無い」


確かに、大事には至らなかったものの…

綱吉表情に影がさす


「…痛い、ですか?」

「……うん、痛いね」

「俺も、ここが、痛い…です」


そう言って恭弥の左手をとると自分の胸に当てる

トクン、トクン、と確かに鼓動する命の証

悲しくて、悲しくて、心が痛む


「綱吉…」

「俺が、事故にあったとき…恭弥さんもここが痛かったですか?」


涙目で、恭弥を見る

その言動が可愛くて思わず抱き締めたくなる衝動に駆られる

しかし、自身も泣きそうな表情なのだろうことを知っているので、それはできなかった


「うん…痛かったよ、すごく」


左手を綱吉の右手に絡ませて額をあわせる

近くなった視線はその手に注がれていた


「痛くて、辛くて苦しくて…壊れてしまうのではないかと思った」


ゆっくりと紡がれる言葉に綱吉は耳を傾ける


「でも、君が頑張ってるのに、自分の心を折るわけにはいかなかった…だから、頑張れたんだよ」

「恭弥さん…」

「すべては、綱吉のため…綱吉の為に苦しんで、悲しんで、頑張って、泣いて、笑った」

「は、ぃ…っ」


すべてを、綱吉に捧げるために

綱吉だけを、思う

綱吉のために、生きる


「僕はまだまだ弱いけれど、君を守るならこの命すら惜しくない…
でもそれで君が泣くのなら、何があっても生きる」

「―――俺、も…俺も!!恭弥さんの為に泣いて笑って怒って哀しんで…守って、生きます!!」


どうしようもないこの衝動


「好き、です…好きです好きです大好きです…っ
だから、俺の知らないところで、傷付かないで下さい…!」


思うが故の、わがまま


「綱吉も…僕の知らないところで傷付いたら、許さない」


抱き締めて、腕の中へ

傷付いた腕の痛みなんて気にならないほどに…

綱吉も、恭弥の背に腕を回した


「恭弥、さん…」

「うん」

「恭弥さん……っ」

「うん…ありがとう、綱吉」


自分の為に、泣いてくれる人がいる

この子の為に、生きようと思える

ずっと、ずっとずっと…

いつまでも―――…




fin___.

≫あとがけ☆
なんか、「例え君が僕を忘れても 僕は君を忘れない」の続き、みたいなの
なんでこんな話になったのかはまぁあれだ
バイクで転倒したから!!
これ、じつは、2007.10.25.に書いたやつ
前日にほら、超転倒しまして、授業中痛くて、なんか思いついた、みたいなノリです
何かネタ無いか探してたら発掘したので

ここまで読んでくださりありがとう御座いました!

2008.2.12.
  倉紗仁望