青く澄み渡る大空

そこへ漂う白い雲

今日も平和だ




=== 草壁の夏休み ===




「……はぁ」

「どうかなさいましたか、委員長」

「…最近、綱吉に逢ってない」


夏休み

冷房の効いた応接室で風紀副委員長、草壁哲也は仕事に励んでいた

風紀委員長である雲雀恭弥の元、忙しくも充実した日々を送っている草壁は時々こうした愚痴を聞く

この愚痴は自分にのみ聞かされることであることを知っているため悪い気はしないのだが、たまに胃が痛い思いをすることもある

大抵が惚気話であることは百も承知


「沢田ですか…?」

「うん、最後に逢ったの…3日前…」


夏バテの所為で気だるげなのかと思っていたがそうではなかったらしい

沢田綱吉は恭弥の恋人だ

このことを知っているのは極小数だが、多分勘付いているものは多いだろう

確か彼は今、家族で旅行に行っていると聞いた

出かけに恭弥を頼むとの連絡が来たのだ

本当にいつもいつも感心してしまうほど気配りの多い方だと思う

さすがは恭弥の認めた方だ


「毎日、メールとか電話は来るんだけど…物足りない」

「委員長もご一緒されれば宜しかったのでは…?」

「僕はあの駄犬や野球部員や種馬とは違って家族水入らずを邪魔する気はないよ」


駄犬や野球部員や種馬

それはいつも綱吉を取り巻いている友人たちのことだろう

獄寺隼人、山本武、“跳ね馬”ディーノ

なるほど、恭弥は綱吉以外と群れるのが嫌なのだろう


「……いつ並盛に?」

「明日」


逢いに行こうと思えば、恭弥ならバイクでいける距離だろうに…

どうやら群れるのが嫌、という理由だけではないようだ

おそらくは…


「委員長、仕事のことなら自分がやっておきますが…」

「……なに、行って来いって?」

「夏休みも毎日のように仕事をこなしていらして、休息していないのでは?」

「…僕がいないといつ変な輩が現れるか知れないからね」

「一日くらいなら自分や他の委員たちでなんとかできます」

「…………」


考えるような素振りを見せる恭弥

あと一押しか


「沢田も、委員長に逢いたいと思いますよ」


刹那、恭弥の纏う空気が変わる

少し調子に乗りすぎたかと目を閉じて次にくるであろう衝撃に備える

しかし思っていた衝撃はなく、代わりに肩に何かがおろされる

目を開けば自分よりも少し低い位置にある、恭弥の頭


「じゃぁこれ、頼まれてくれるかな」

「―――押忍…っ」


差し出されたのは明日中に提出のファイル

恭弥は手早く身支度を整えてファイルをいくつか持った

おそらく家で処理するつもりなのだろう

草壁は受け取ったファイルを開く

この量ならば自分でも明日中に終わらせることができるだろう

いつもいつもこの大量の資料整理をひとりで請け負っている恭弥にくらべたら微々たる物だ

少しでも役に立ちたいと思う


「じゃぁ、悪いね…明後日にはちゃんと…」

「こちらのことは気にせずゆっくり羽を伸ばしてきてください、委員長」

「…ありがと、いってくる」

「―――押忍、お気をつけて」


深々とお辞儀をして恭弥を見送る

いつもいつも並盛のために勤めている恭弥に少しでも楽をしてほしいと思う

これは風紀委員一同みな思っていることだ

夏休みくらい、楽しい思い出を残してほしい

草壁もきちんと夏休みの間、休みをもらっていた

だからこれはせめてもの…





  



「綱吉」

「きょ…やさ…っ?!」


驚いたような表情で振り返る綱吉に思わず苦笑する

逢えなかった時間を埋めるように綱吉を抱きしめた


「逢いたかった…綱吉」

「お、俺も…って、どうして…仕事は?」

「…草壁が気を利かせてくれてね」

「う…わぁ…さすが草壁さん」


本当に、彼には感謝してもし足りないくらい感謝しているのだ

目の前に逢いたかった人がいることを確認して綱吉は一度離れる


「帰ったらお土産もって御礼しに行かないと」

「お土産か…なにがいいかな」

「あ、草壁さんの好きなものとか知らないんですか?」

「…………考えたこともない」


それは上司としてどうだろう

信頼できる一番の部下のことくらい知っておいてほしいと思う

まぁそこら辺は恭弥らしいといえば恭弥らしいのだが


「お、何だヒバリーきたのか」

「と、父さん…」

「ん〜青春だねぇツナも隅に置けないな、このこの」

「う、うるさいなぁ…っ父さんには関係ないだろ!!」


照れてるのか頬を染める綱吉に苦笑する

何度か沢田家で顔をあわせている綱吉の父でありボンゴレの門外顧問の沢田家光

なるほど、ふざけたなりをしているが隙がない

これはこれで尊敬に値する

綱吉は気づいていないだろうけれど

それにしても…


「それでなんだ?土産か?」

「草壁さんに…」

「あぁあいつかぁーときどきディーノんとこのロマーリオと一緒に飲んでるの見たことあるぜぇ」

「は…」

「ヒバリもいい部下をもったな」

「……はぁ」


このテンションにはついていけない

多分一生この人とそりが合うことはないだろうなと確信している恭弥だ


「お、これなんかいいんじゃねぇ?」

「えぇー…親父臭い」

「でも草壁もこういうの好きだと思うぜ?なぁヒバリ」

「……;;」


いきなり話を振られても困る

綱吉は少し慌てたように恭弥の腕をつかんだ


「と、とにかく!俺これから恭弥さんとふたりでデートしてくるから!!邪魔すんなよな!」

「へーいへい、まったくツナは最近冷たいなぁ…」

「恭弥さん、行きましょう」

「いいのかい?あれ」

「いいんです!!せっかく草壁さんがくれたプレゼントなんですから存分に楽しみたいです」

「プレゼント…」


確かに、そのとおりだろう

だからこそ、デートと称して土産を探す

これはせめてもの恩返し


「あ、これなんかいいかも」

「こっちも、草壁ならこういうの好きそう」

「あ、恭弥さん!これもいいかも!!」


かくして草壁へのお土産選びは心配した奈々からの電話がくるまで続いたとか



  

「草壁さん!!」

「む…沢田、…と委員長」


町を歩いていると偶然出くわしたその人

綱吉は慌てて駆け寄って呼び止める


―――そんなに走ったらまた…あ、転んだ


「危な…、」

「ぐぇ…、すみません」


恭弥に襟首をつかまれて地面との接触は免れたが、少し苦しそうだ

その情景に苦笑する


「あの草壁さん!ありがとうございました」

「ん?あぁ…楽しめたか?」

「はい!すっごく」


草壁は綱吉に対して敬語は使わない

はじめこそそうだったのだが、綱吉がやめてほしいと言い出したのだ

年下に敬語を使うのはおかしいと

渋っていた草壁だが、恭弥からも綱吉がそうしてほしいと懇願していると聞いて敬語はやめた

それのおかげか否か、綱吉はよりいっそう草壁とよく話すようになった

恭弥が応接室に不在のときはよく話し相手になったりしていた


「それは、良かったな」

「あ、これお土産です!」

「!」


差し出された大きな紙袋

受け取ると何が入っているのかけっこう重たい


「お礼もかねて、ですけど」

「……」


無言で恭弥をみると、頷いたのがわかる

目元を綻ばせて、綱吉の頭をなでる


「わざわざすまないな」

「いえ!俺こそいつもありがとうございます!」


草壁がいないとゆっくり恭弥とすごすこともままならないだろう

いつもいつも影から支えてくれる草壁

きっと、恭弥はそんな草壁だからこそ風紀副委員長においておくのだろう

いつまでもふたりを支えてくれる存在であると思う

もしかしたら近い将来ボンゴレの一員になるかも知れないと思うとなんだか複雑な気分だ


「それじゃぁ、帰ろうか綱吉」

「うわ、もうこんな時間…それじゃぁ草壁さん!また!!」

「転ぶなよ」

「大丈夫ですよ!」


そういって一瞬足を縺れかけたがそこは恭弥がカバー

遠くなっていくふたりの影を見送って草壁はゆっくりと帰路へついた

今回、恭弥は何も言っては来なかったが…これはこれで感謝されているのだろうなと思う

自惚れすぎかもしれないが、少なくともあのふたりの幸せのためならば、と骨身も惜しむことはないだろう

きっと、この先も…ずっと






...fin




あとがき
なんか草壁にスポットを当てたい今日この頃です!!!
ヒバツナのまったりは草壁あってこそ!みたいな
個人的に草壁好きだったりするだけかも←
ヒバリさんのカプにはもれなく草壁がついてくる 笑
ここまでお付き合いくださりありがとうございました

2007.8.23.
    倉紗 仁望


⇒おまけ⇒

 




「饅頭、茶葉、キーホルダー、ご当地限定菓子に絵葉書に……置物?」


綱吉から手渡された紙袋を自室で広げてみるとお土産の定番ともいえる品々

さてさて、どれから手をつけるべきなのか

悪くなるものは早く食さなければならないだろう

しかし、自分のためにこんなにもたくさんのお土産を選んでくれるとは思っていなかった

食べるのがもったいないと思ってしまうほどに

絵葉書は写真たてにでも入れておこう

置物は少し高い位置に飾っておこう

そしてそれをみて表情を緩ませる

それらに見守られながら、毎日あのふたりを見守っていこうと心に決めた草壁であった









感想とか待ってたりします!←
ありがとうございましたぁぁ