遠い遠い、小さなときの記憶

忘れてしまっていたその記憶が今、鮮明に思い出せる

小さい頃に両親の仕事の関係でしばらく親戚に預けられたことがあった

その時に出逢った自分と同じくらいの少年

まさかその子が今自分の隣にいるなんて思っても見なかった






=== 遙 === 恭弥said. ===






『ないてるの…?』

『ふ、ぇ…っ?』


初めて、その子に出逢ったのは10年も前の話

公園で一人泣いていた

みれば膝には大きなすり傷

転んだのだろう、服も泥だらけだった


『だいじょうぶだよ、ほらたって』

『う…ぇ…グス』


何故その子に近づいて慰めてあげたのかは覚えていない

ただ、何故か惹かれるものがあったのだ

大きな瞳からこぼれる大粒の涙

持っていたハンカチで涙を拭いて、傷を水道で洗う

痛そうに顔をゆがめてまた泣き出しそうだった


『ないちゃダメ』

『だって…いたい…』

『おとこのこは つよくなくちゃいけないんだよ』

『じゃぁおれ、おとこのこじゃなくてもいい…』


今考えると何を考えているのだと言いたいがそのころの僕はあまりにも幼かった

だからか、なにか男の子で良いことはないかと子供ながらに考えた


『おとこのこなら、こいのぼりとか、かしわもちとか、いーっぱいたべられるよ?』

『こいのぼり…』

『ぼくのたんじょうびがこいのぼりをあげるひなんだよ』

『いーなー…』

『おとこのこのひにうまれたから、ぼくはとってもつよいんだよ』

『すごいね!』


それだけで少年の目から涙は消えていた

笑顔で「男の子で良い!」と言った姿は幼さが強調されていて可愛いとすら思えた

それからほとんど毎日公園に通うようになった

親戚の人間は僕の扱いになれていなくて内心ほっとしていたのだろう

4時には家に帰るようにしていたために親戚も安心していた

しかし、公園に行くたびに泣いているあの子

ハンカチとティッシュとバンドエイドに消毒液を常備していく僕に親戚は首をかしげいていた

転んでは傷を増やしていくその子に笑っていたのを覚えている


しかし、その時はきた


家に帰る日が来たのだ

僕はその子の名前すら知らなくて、家なんか解るはずもない

ただ、この近くなのだろうことはわかっていた

それだけだ

もう逢うことはないだろうその子

でも毎日のようにまた怪我をしているのではないかと心配だった時期もあった

しかし、小さいことの記憶というのはだんだんと薄れ行くものだ

その子がその後どうなったのかは知らなかったけれど…


「その時のその人に今逢えたら、御礼を言いたいなぁって未だに思うんですよねぇ」


話を聞いて、解った

あのときのあの子は、今隣にいる沢田綱吉なのだと

なるほど、今のドジっぷりをみれば同一人物だ


「昔からドジだったんだね、綱吉」

「ゔ…」


記憶から消えてしまっていた、小さな想い

あのときの僕は、君に逢うために公園へ通っていた

今も、形は違えども…綱吉を思う気持ちはあの時と同じ

もちろん、今のほうが愛してるけれどね…


「……大丈夫」

「恭弥さん…?」

「君は…ずっと僕が守るよ」

「……?」


昔も、今も、これからも…

ずっとずっと、僕が君を支えてあげる

守る


「さぁ帰ろうか、綱吉」

「…はいっ」


小さな公園にはもう誰もいない

あの頃となんらかわらないその風景


変わったのは、僕と君の、関係


遙か遠い昔の記憶

今でも…君の心に―――