=== コイ === 雲雀恭弥 said. ===



なんだろう…

解らない…

なんだろう、このもやもやした気持ち…

どうして僕がこんなことで悩まなくちゃならないの…

なんで僕が君のために悩まなくちゃいけないの…

どうして君は…





僕に優しくしてくれるの―――――…





いつも突然…僕の心を侵食していく…

君のことばかり考える…

考えるたびに胸が苦しくなって…

いつの間にか視線が君に向いている…

こっちに気付いて小さく手をふる君の笑顔が綺麗だと思った…

どんなに高名な細工師が作った宝石よりも…

どんなに澄み渡った青空よりも…

君が綺麗だと、思う。


「どうかしたんですか?ヒバリさん」


応接室 放課後 夕焼空 いつもの風景

声をかけられて書類から顔を上げれば彼がいた

心配そうな、表情

そんな顔しないでよ…

君が笑ってないと僕だって笑えないよ?


「ヒバリさんがそんな顔してたんじゃ、俺だって悲しくなりますよ…」


まるで心を読んだかのように発してきた君の台詞に思わず目を見開いた

どうして君は何でもわかってしまうの…?

僕はなにも気付けないのに…

ねぇ…

どうして…?


「綱吉……」


彼の頬に手を添えて呟く

首をかしげて「なんですか?」っていう君の表情が優しく微笑んだ

この笑顔を見るだけで、今日一日の悩みなんか吹っ飛んでしまう自分がいる

このことを知っているのは僕だけ

誰も知らなくて良い…

僕だけの特権

君の笑顔は、どんな綺麗なものよりも美しくて…

僕の心を癒してくれる…


「……綱吉」


何度も名前を、呼ぶ

そのたびに「はい」と返事をしてくれる君に甘えてる

言いたいことがたくさんありすぎて、言葉にならなくて、もどかしい…

いつも一緒にいる二人はいない

赤ん坊もいない

二人だけ…

でも…

その時間も、放課後だけ…

本当は離れたくない

ずっと傍にいて欲しい

あの二人と一緒にいるところを見たくない

あの二人に笑顔を向けているのが耐えられない

どうして君の隣に僕はいないんだろう

どうして僕はいつもただ見ているだけなんだろう

一緒にいたい 離れたくない でもできない

きっと僕と一緒にいれば君は周りから畏怖の目で見られてしまうかもしれない

僕と一緒にいれば君の友人が離れていってしまうかもしれない

君に幸せになって欲しいのに…僕じゃ、隣にいることができない…


「―――…綱吉………」


頬に何かが伝った気がした

声も、震えているような気がした

君の顔をまっすぐ見られない

俯いて、隠した

でも暖かい手が僕の頬に触れて、頬に伝ったものに触れた


「どうして泣くんですか…?」

「どうしてそんなに悲しそうなんですか…?」

「俺のこと…嫌いになりましたか…?」


悲しそうな声が聞こえてきて、顔を上げる

そこには思ったとおり悲しそうな表情をした彼がいた

そんな顔をしてほしくない

君には笑っていて欲しい

――…離れていかないで
  

「――…ょし」  


震えているのが解る


「つ…ぁ、し…」
 

あぁ…泣いてるんだと、思う


「つな、…しっ」


止まらない…止め方を、知らない 

この感情を…なんて呼ぼう


「――綱吉…っ」


机越しなのがもどかしくて、もっと君の近く…机の上に座って、その細い身体を抱きしめた


「…ヒバリさん…書類、破けちゃいますよ…」

「…ぃぃ…」 


半ば呆れたようなその台詞にただ一言呟いた。

その返事にクスっと笑って僕の背中に腕を回した君の体温が心地よい…


「どうしたんですか…?」

「…」

「言ってくれなきゃ…俺、解らないですよ…?」

「…」

「…ヒバリさん…?」


抱きしめる力を少しだけ強めた

離れたくない…

離さないで…


「もぅ少しだけ…こうさせて……」


自分のことながら、ずいぶんと弱弱しい…
 
こんなの…君の前だけなんだからね……