「なかなか終わりませんねぇ」

「そーだね…」

「なんでこんなに溜まってるんですか…?」

「さぁ………」

「………」


先ほどから恭弥の機嫌が宜しくない

何かしたかと綱吉は心配になる

弁当は美味しいって全部食べてくれた

今日他にはなにもした覚えがない

では何故こんなに不機嫌なのか


「………恭弥さん」

「何?」


判子を押す手を止めて恭弥に向き直った

それを怪訝そうにして恭弥も仕事の手を休めた


「俺より、獄寺くんの方が仕事早かったですか…?」

「…なんでそう思うの、綱吉」

「だって恭弥さん…さっきから機嫌悪そうで…その、俺…」


そこで合点がいったのか恭弥はあぁと呟く

まったくこの子はなんの心配をしているのか


「違うよ、綱吉は全然悪くない」

「でも…」

「僕が今機嫌が悪いのはこの馬鹿みたいに多い資料のせいだよ、だから綱吉は全く関係ない」


そう言って資料に手をのせた

なんかはぐらかされた気がしないでもないが…

恭弥がそう言っているのだからそうなのだろうと綱吉は安堵の息を吐く

その姿を横目で見てから恭弥は嘆息

本当は先ほどの屋上のことで不機嫌なのだ

しかし、武がそういう感情を持ち合わせていることを綱吉は知らない

言ってしまうと綱吉が困るのは目に見えてる

だからあえてこのことは伏せてあるのだ


「今日中に終わるかな…この資料」

「ここは恭弥さんの腕の見せ所ですね」

「…クス、そうだね 頑張ろうか」


綱吉は本当に恭弥のことを心から想っている限り何もない

それだけはありえないものであると信じている


「あぁそうだ、今日は放課後会議があるから先に…」

「待ってます!」

「そう…」


先に帰って良いよ、というつもりだったのだが綱吉はあくまで一緒に帰りたいのだろう、待っていると応える

本当は一人にするのは心配だから隼人と先に帰っていて欲しかったのだが…


「じゃぁここで待っててくれるかな」

「はい!」


ここなら誰も来ない

それならとりあえずは安心だ


「来るとしたら、草壁くらいかな…もし来たらこの資料を職員室に持って行くように伝えて」

「任せて下さい!」


何か役に立ちたいと綱吉はいつも風紀委員の仕事を手伝ってくれる

風紀副委員長の草壁とは顔なじみだ

綱吉も風紀委員になればいいのにと思う

でもそれだと綱吉まで危ないめにあってしまう可能性があるので恭弥はあえて一般生徒のままにしている

恭弥がなにを思ってそうしているのかをちゃんと理解している綱吉はお手伝いくらいは、といつもここに足を運んでいる

これは暗黙の了解だ


「それじゃ、今日は僕の家に帰ろうか」

「本当ですかぁっ?」

「うん」

「わぁっ久しぶりですね!」


毎回じゃんけんでどちらの家に寄るか決めている

勝った方の家に行くのだが綱吉はボンゴレの超直感でいつも勝ってしまうのだ


「じゃんけんなしって久しぶりですね」

「クス…綱吉はじゃんけんだけは天下一品だね」

「それしか特技がないんです…」


情けないとでも言いたそうに綱吉はうなだれる

その姿が可愛い


「綱吉…」

「はい?」

「愛してるよ」

「――…はい」


少しだけ泣きそうな顔をしていた綱吉が途端、笑顔になる

これ以上の幸せはないと表情が言っていた

 



放課後まで仕事をしてなんとかあとは判子待ちの資料だけになった

これは綱吉だけでできるから恭弥が会議中に仕上げておくということで話がまとまった


「それじゃぁ少しだけ良い子にして待ってるんだよ」

「そんな子供じゃないですよー」


頭を撫でていうと綱吉は嬉しそうな表情で返した

「じゃぁいってきます」

「はい、いってらっしゃい」


恭弥は一度綱吉にキスすると応接室をあとにした


「あ、なんか今の新婚さんみたいだ」


いってきますのキス

なんだかそれは新婚夫婦のような錯覚を思わせた

綱吉はやる気がでてきてテーブルに向き直った

早く仕事を終わらせて恭弥を驚かせてやろうと今まで以上のスピードで判子を押していった


   




「ふー…終わったぁー」


大きく伸びをして天井を仰ぐ

あれだけあった仕事は全部片付けてしまった


「えへへぇー…恭弥さんびっくりするなーきっと」


それを考えると少し誇らしかった

会議が終わるのは多分5時を過ぎるのだろう

今の時刻はすでに5時になる2分前だ


「あ、そーだ…恭弥さんに教えてもらおうと思ってたやつ………」


それは今日の午前の授業で解らなかったところだ

授業で解らないことがあったら恭弥に訊くように言われている

ただ、解らないことだらけで切りがないのでその日一番理解したいと思った教科を選択するような形だ


「どーしよ…教科書とノート教室に置いて来ちゃった…」


昼休みからそのままずっとここにいたので勉強道具一式全て机の中

でも今から取りに行っていて恭弥が帰ってきたらどうしようか

いっそ恭弥が帰ってきてから二人で取りに行くのも良いが疲れているであろう彼に余計な手間をかけさせたくない

その時応接室の扉がノックされた


「はい…?」

「失礼します」

「あ、草壁さん」


入って来たのは風紀副委員長の草壁だ

綱吉しかいないのを見て少々驚いたような表情を見せたが会議のことを思い出したのか納得したような感じだ


「委員長はまだ会議中で?」

「はい…あ、恭弥さんが草壁さんにこの資料を職員室にって…」


そう言って恭弥がいつも座っている机の正面にあった資料を手渡そうと手を伸ばす

だがそこで動きがとまった


「あ…あの草壁さん」

「なにか…?」

「ちょっとお願いしても良いですか?」


今草壁がここにいてくれれば教室に教科書をとりにいけると考えた綱吉はおずおずと尋ねる


「では、俺もついていきましょうか…?」

「いえ!恭弥さんが来たときに誰もいなかったら心配かけてしまうかもしれないので…」


それを聞いて快く受け入れてくれた草壁に礼を言って早足に教室へ急ぐ